第70話

心繋ぎ、進め進め①

「紳人。大丈夫かの…?」

「大丈夫だよ、問題ない。コンは平気?」

「わしは沢山貰ったから寧ろ元気なくらいじゃ。しかし、お主は」

「君が満たされているなら、それ以上に俺を元気にしてくれることは無いよ」


オクレ兄さんの夢を見かけたが、何とか堪え目覚めたお昼。


腰が抜けなかったのは成長だと思うけど、精魂搾り尽くされ一回りくらい細くなって全身骨張ってる感覚がする…もっと鍛えなければ。


「紳人…では、ずっとこうしているのじゃ♪」


コンがリビングのソファに倒れ込むように座っていた俺をぽふっと狐の尻尾で横にして、自身の太ももに俺の頭を寝かせる。


柔らかく温かなその太ももは俺の体の健康的な疲労を和らげてくれる。


「コンの膝枕って結構久しぶりかも?」

「そうじゃったか。なれば、存分に堪能するが良い」


さわ…さわ…と慈しむような手つきで撫でてくるコン。


陽だまりのように穏やかな気持ちになりながら、暫く無言でその手に身を委ねた。


「おぉ、一つお主に言い忘れておった」

「ん?何かな」

「もしまたわしが欲しくなったら…いつでもしてやるから、我慢せずに言うのじゃぞ」

「なっ!?」


軽く覗き込まれ、その際耳に彼女の橙色の綺麗な髪が触れる。くすぐったいけれどそれがまた愛おしい。


なんてことを考えていると、コンは俺の火照りを刺激するかのような発言と艶やかな声色で誘惑してきた。


慌ててバッと見上げればその表情は傾国なんてものではないほどに美しく、くすりと妖しく微笑む様は俺の心など彼女の手のひらの上なのではとさえ思える。


「む?早速したくなったかの?」


ニヤニヤしながら俺の頰に手を添えるコン。


嬉しそうにしてくれる愛おしさと、揶揄われていると分かっていても弄ばれる背徳的な悦びが湧き上がる、けれど。


此処で素直に見惚れるのも恥ずかしいし、少し…遊んでみたくなった。


「良き夫婦の秘訣は偶の刺激、俺たちもそうあるためには程々にしないといけないね」

「ほう?」


コンは俺の返しに最初は意外そうに金色の瞳を丸くしたものの、すぐに楽しそうに笑みを深めると尻尾で俺のお腹を撫で刺激しながら囁いてくる。


「ならば最高の夫婦は、常に刺激を求め合うのじゃろう。偶の刺激で良くなるのならば、な」

「なるほど…」


上手く返されてしまった、流石はコンだね。


そんな彼女も耳を可愛らしく揺らしているのでまだまだ乗り気みたい。


であれば…お相手するのが人として旦那としての勤め。存分に楽しんでもらうとしよう。


俺の瞳を覗き込むように顔を近づけるコンの柔らかな頰を傷付けてしまわぬよう、そっと丁寧に俺の手をあてがう。


「ただただ刺激を求め合うばかりじゃ、獣の駆け引きと同じかもしれないよ」

「なるほどのう。しかし、わしは狐の神様でお主は立派な男子。どちらも獣に違いはないのぅ」

「それは確かに…けれど、狐と狼。それじゃあコンは、俺に美味しく食べられちゃうけれど良いのかな?」

「もしそうであれば、わしは紳人に全部堪能されちゃうわけじゃな。その逞しい腕で…ガッシリ掴まれ、ダメというわしを何度も何度も♡」

「えっ」


おかしい。何だか、雲行きがおかしいぞ?


俺は無意識に起き上がるとコンにゆっくりとお腹の上から乗り掛かられ、全然力は入ってないのに俺は押し倒されてしまった。


コンの柔らかな胸の感触と心地良い質量が伝わり、鼓動がドクンドクンと早くなる。


「しかし、並大抵の狼では狐の相手は捕まらぬ。お主はさて…どちらじゃろうな?♡」


俺がコンとの2を制したのかどうかは、帰ってきたウカミがあらあらと微苦笑を溢したと言ったら分かってもらえるはずだ。


まだまだ狼は、狐に弄ばれる側らしい。

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