幕間•狐と油揚げ?

「コン」

何じゃ、紳人愛しておるぞ♡」


俺は今、寝室の布団に押し倒されている。


そっとだとかもつれ込むようにだとか、そんなものではなく。


最早獲物を捕らえる獣の動きで。


「あ、あの、俺と会話を」

ちゃんと交わしておるぞ絶対逃さないのじゃ♡」


ペロリと艶やかに舌舐めずりしながら、俺の視界をその可愛い顔と橙色の髪のカーテンで染め上げるコン。


彼女の指が俺の服へとゆっくり伸びていく。


されるがままの俺は、ドキドキしながら何で此処までコンが制御不能になっているのか脳裏でフラッシュバックさせていた。


〜〜〜〜〜


雅の踊りを見届けた俺たちは、今度こそ『門』を使って『神隔世』経由で帰宅した。


若干遅くなった俺たちを優しい笑顔でウカミが迎えた…のは良かったんだけど。


彼女が用意してくれていた晩御飯がすき焼き鍋だったのだ。


手洗いうがいをしっかり済ませてから、ちゃぶ台型テーブルの前に並んで座る。


「へぇ、この季節には珍しいね」

「わしは好きじゃぞ!」

「ありがとうございます♪実はこの後アマ様から急な呼び出しがありまして…明日の夕方まで帰れそうにないんです」

「そっか。忙しいのにありがとう、ウカミ」

「いえいえ…それでは、行ってきますね!」

「「いってらっしゃい」なのじゃ!」


鍋を程良く煮立った状態で用意してくれていたウカミは、白銀の尾を揺らし一礼すると冷蔵庫の『門』から足早へと神隔世に吸い込まれていった。


「ふぅむ…そこまで緊急を要するものであればわしにも連絡が来そうなものじゃが」

「多分ウカミに直接話があったのかも?明日の夕方まで帰れないみたいだし、少し申し訳ないけど俺たちだけで食べよう」

「そうじゃの。良い匂いがして、とても美味しそうじゃぁ♪」


ぴこぴこと微笑ましく耳を揺らして喜ぶコン。


そんな彼女に癒されながら、俺たちはウカミお手製のすき焼き鍋を〆まで綺麗に平らげるのだった。


……思えば、これに何か興奮剤のようなものが入っていたのだろう。


片付けを終えてソファでのんびりしようかな〜と思って振り向いた瞬間、背後に音もなくコンが立っていた。


「わっ!ビックリしたよ、コン」

「……」

「コン?」

「♡」


反応が無いのでヒラヒラと目の前で手を振ってみたら、ゆっくりと小さな両手に俺の手は包まれ。


「----あれ?」


ヒュオッ!と軽く風が起きるような音を耳にしたかと思えば、寝室の布団へと押し倒されていたのである。


〜〜〜〜〜


「紳人、紳人♪ちゃぁんと約束したものな、今宵はたっぷりと愛し合うと」


ゆらりゆらりと体を揺らすコンの耳はぺたりと伏せられている。


にも関わらず、ブンブンと激しくその尻尾は揺らされ彼女が強く興奮していることを示していた。


「あぁ…良い匂いじゃ。たまらぬ、紳人よ…わしを誘っておるなぁ?愛い奴め」


マーキングするかの如く扇情的に俺の首筋に頬をすり寄せ、鼻を小さく鳴らして何度も匂いを嗅ぐと恍惚に金色の瞳を細めながら笑う。


そんなことはなかったはず、なのに。


コンに見惚れているからだけじゃなくて、俺自身も妙に熱に浮かされ思うように思考が働かなくなっていく。


もう細かいことはどうでも良い…今はただ、ひたすらにコンに愛されたいコンを愛したい。


余計なことは考えないで、この湧き上がる熱を共有したい…!!


「コン。君が欲しい、君のその全てが!」

「勿論良いぞ?その代わり、お主の何もかもを食わせろ♡」

「どちらが食べる側か…勝負だね」


----そして。


俺とコンは、溢れる愛情のままに互いで興奮するから火照りが収まるはずもなく。


2人の逢瀬は穏やかな春の朝日が部屋に差し込むまで紡がれて。


肩を弾ませ一糸纏わぬ姿で朝の陽光に包まれるコンに心奪われながら、強く抱き締め合って気絶するように眠りに就くのだった。

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