人よ謳え、祀るその名を③

現実に戻った後、俺たちはその場に戻ってくると踏んでいたらしいウカミと未子さんに事情を説明。


「しょうがないですねぇ…それじゃあ弟くんは体調不良になったので早退、コンはその付き添いでの早退ということにしましょう♪


晩御飯までには帰ってくるんですよ〜」


流石の対応力の我が姉ウカミに感謝しつつ、コンによって開かれた『門』を通って一度『神隔世』を経由。


その後、雅が最初に踊りを残したという地へ。


「……あれ、此処ちょっと遠いかも」

「見たことも来たことない土地じゃったからなぁ…すまぬ」

「大丈夫!お祭りならまだお昼過ぎだし、時間はたっぷりあるよ!」


『門』から出た俺たち。


そこは、田んぼや山々が広がる穏やかな場所だった。


けれど神社は近くには見当たらず、少し離れた位置に出たみたい。


それでも時間は余裕がある。今日開かれる祭りで、皆に見て貰えば良いのだから。


「怪我でもしたら大変だ。歩いていこう」

「ワタシ、浮いてる」

「わしも尻尾が…いや」

「?」


雅のシャンシャンと煌めく金髪と鈴の音に先導されて道を進み始める最中、ふとコンが俺の腕にぎゅっと抱きつく。


そしてチラリと上目遣いで可愛らしく覗き込んで一言。


「お主との愛で、クラクラしてしまうかもしれんのぉ?」


ドクンッ…と、鼓動が激しく脈打つ。


その金色の瞳は俺の心を見透かすようで、その微笑みは俺の心を掴むかのようで。


コンのこと以外考えられなくなるほど、激しい衝動に襲われた俺は。


「ちゅっ…」

「んぅ!?」


半ば強引に甘いコンの唇を奪ってしまうのだった。


数秒たっぷりとキスを味わってから、ゆっくりと唇を離す。


「し、紳人…お主…」

「どう?クラクラするかな?」

「〜〜〜〜!」


頰を赤くして口を開閉させるコンが可愛らしくて、つい彼女の狐の耳に吐息混じりに囁きをこぼすと。


ボンッ!と湯気が出るほど顔を真っ赤にさせてしまった。


「この手のことが、どんどん手練れになってきておる気がするのじゃ…」

「こう見えて毎日コンに惚れてもらえるよう必死なのさ」


前を向いて空いている手でコンの頭をさわさわと撫でる。


「惚れるどころの話ではないわ、たわけめ」


ポソッとコンが溢した言葉はとても小声で…独り言だろうと、心に留めるだけにした。


「人と神の付き合い方にも、色々あるね」


雅が振り向いて手を後ろで組みながら、何処か眩しいものを見るように黄玉石の瞳を細め微笑む。


目の前にいるから当然なんだけどいつの間にか見られていたらしい。


……何だろう、急に恥ずかしくなってきた。


先程までの歯の浮いた言動から我に返って、顔が凄く熱くなる。


「じゃから言うたろうに。この、たわけめ♪」

「はい…調子に乗りました」


神様を揶揄いすぎると返ってくる。


身に染みて分かったよ…。誰かに神様のことを話す機会があったら、これも忘れずに伝えよう。


そう思いながら、俺は先を歩くコンと雅の背中を追いかけるのだった。

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