第68話

鈴が鳴る、祭りが始まる①

4月19日金曜日、この日は朝から。


「うゃん、うゃん〜♪」


大層ご機嫌だった。


それはお昼休みとなり、ウカミも交えて三人でのお昼ご飯となっても変わらない。


「コン。ご機嫌だね」

「紳人こそ、何故そんなに落ち着いておるのじゃ。今日が楽しみではないのか…?」


何故か寂しそうに目を伏せチラリと此方を見つめるコン。


しおらしいその姿にドキッとしながら、俺は何とか彼女を元気付けようと明るく笑顔を見せながら言った。


「そりゃあ俺も楽しみだよ」

「本当かの!?」

「あぁ!宿題もパパッと終わるものだし、土日は学校が無いからゆっくり出来るしね!」

「……わしもお主と沢山過ごせるのは嬉しいが、今最も楽しみなのは今日じゃ」


むむぅと頰を膨らませ尚も不服そうなコン。


これはいけない、彼女の伴侶としてしっかり言わんとするところを察してあげなければ。


何となくだけど…これは、俺が察してあげないといけない気がする。


「今日…」


ポツリと呟いて意識を集中させ顎に手を当てる。


思えば、昨日の朝もコンは今日が楽しみだと言っていた。その時の本能的な眼差し…あれは、まるで。


『俺との逢瀬の際に見せる瞳にも似て…』。


「あぁ、そうか」

「ふふっ…漸く分かったか。此奴め」


彼女が何故こんなにも今日を楽しみにしていたのか、今漸く分かった。


というよりも、最初に考え付かなかったのがちょっと恥ずかしい。


コンはもう昨日の朝から…今夜の俺との時間を楽しみにしていたんだ。


「もしも〜し。お姉ちゃんも居ますよ〜♪」

「うやぁっ!?」

「ご、ごめんウカミ!」


俺を優しく見つめるコンのキラキラとした金色の瞳と優しげな微笑みに心奪われていると、ウカミが俺とコンの頬を2回尻尾で小突く。


慌てて我に返ると、恥ずかしさと申し訳なさで即座にウカミへ頭を下げた。


「良いんですよ♪でも…ずっと構ってくれなかったら、拗ねちゃいますからね?」

「……」


くすっと微笑みながら俺の瞳を覗き込むようにちょっとだけ前のめりになるウカミ。


いつものように魅惑的にそのお胸や揺れ谷間が見えるけれど、それよりも俺の目を惹きつけたのは。


彼女の妖しさの中に潜む可愛らしい一面を見え隠れさせる、赤い瞳やその微笑みだった。


「こらウカミ!さりげなく紳人を誘惑するでない!」

「あら、怒られちゃいました♪」

「誘惑されていたのか!道理で」

「それはそれとして紳人。今夜は覚悟しておくんじゃな」

「…因みに、許してくれたりは」

「駄目じゃ♡」

「でっすよねぇ」


俺とコン、ウカミの三人はあははと和やかに笑い合う。


けれど。コンの尻尾は固く俺の首に巻き付き、その先端は逃げたらもっとお仕置きするぞとばかりに突き付けられている。


……気絶で済めば、良いんだけど。


「寝ても覚めても一緒じゃぞ♪」

「は、はは…」

「土曜日の夕暮れまで、お出掛けしておきましょうか」


むぎゅっと強くコンに抱きつかれる中のウカミの気遣いは、かえって俺のライフエナジーはピンチなのだと告げていた。


〜〜〜〜〜


お昼を食べ終えコンたちとあれやこれやと話し込んでいたら、あっという間に掃除の時間がやってくる。


次の授業の準備があるからとウカミとは別れ俺たちも掃除場所である校舎裏へと向かっていた。


紳人あなた

「今なんて?」

「男の子と女の子。お主はどちらが良いかの?」

「既に子供を作る気満々だ!?」


コンの発言に俺はドキドキを抑えられない。


先に自分の煩悩を掃除するべきだかな…?


----シャン…シャン…----


「「!」」


その場の空気が突如として鳴り響く鈴の音のままに変貌する。


世界そのものに何か変化があったわけじゃない。


『神隔世』のように絶景が広がる訳でもなければ、『黄泉』のように幻想的に照らされる訳でもなく。


「……わぁ」


ただ1人、いや1神。


俺とコンの目の前に鈴の髪留めを付けた綺麗な女の子が、ゆっくりと舞い降りただけだった。


何故か、棒読みの一声も添えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る