鈴が鳴る、祭りが始まる②
「……わぁ」
舞い降りた少女は、とても雅で乙女と呼ぶに相応しい姿だった。
腰までどころか踵近くまで伸びる長い金髪とツーサイドアップで結えた鈴の髪留め、白無垢と見紛うほどに純白の着物。
真珠というより何処か空虚さすら感じさせる瞳に、雪のように白い肌。
身長はコンよりは高いけれど俺やウカミよりは頭ひとつ分小さい。
「わ、わぁ?」
「もしや…此奴、驚いておるのか」
そんな彼女が目の前に現れるなり棒読みで声を溢すものだから、かえって俺やコンは驚くよりも先に困惑してしまった。
「あなたたち」
「ん?」
「だれ?」
「えっ」
「それは此方の台詞じゃ!」
無表情のまま鈴の音と共に小首を傾げられ、ポカンとする俺とその隣でビシッと指を指してツッコむコン。
「ワタシは…だれ?」
「んなっ!?」
「まさかこれは、記憶喪失…?」
今度はコンが絶句する番だった。
自分の頬を片手で指差して先程とは反対方向に頭を傾ける様に、冗談や揶揄う気配は見て取れない。
どうやら本気で分からないみたいだ…神様が記憶喪失なんて聞いたことはないけれど、恐らくそうだろう。
「記憶喪失とな…つまり、何も覚えておらぬと」
「うん。お家とか、名前とか。よく分からない」
俺と目線を交わしたコンは、軽く尾を揺らしながら腕を組んで少女に訊ねる。
すると予想通りこくりと頷き、そのまま少し目を伏せた。
「いきなり現れたし、神様で間違いはないはずだけど。神様が迷子なんてなぁ」
「向こうに帰してやりたいが…わしらも掃除せねばならぬし、この後の授業をほっぽり出すのものう」
よく見ると、可愛らしい裸足が地面から僅かに浮いているので彼女が神様であることを裏付けている。
しかし半透明じゃないからそのまま現世に来ていることになるため、放置したり付いてきて貰ったら誰に見られてしまうか分からない。
う〜ん…と頭を悩ませる俺とコン。
「かえる?」
「うん。君を元いた場所にね」
「ワタシの、場所…」
ポツリと呟いて金色の髪を揺らしながら、きゅっと祈るように両手を組み合わせた少女。
そのまま片膝をついて本当に祈るような姿勢になり、不意に様子を変化させる少女に俺とコンが様子を見守っていると。
「あ!紳人くん、柑ちゃん!」
「未子さん?」
「捧げた」
「何を!?」
校舎の曲がり角から未子さんが姿を現し、此方に大手を振ってきた。
俺がそれに振り返すと少女は瞳を開き、それから間も無くしてシャランと鈴の音が一つ響く。
「……え?」
次の瞬間。俺たち三人は、忽然と現世から姿を消した。
「紳人くん…コンさん…」
その場に立ち尽くす未子さんの呟き。
それを、何処か温かいそよ風だけが聞いていた。
〜〜〜〜〜
「……コン」
「……うむ」
「此処って」
「『神隔世』、じゃな」
瞬きする間に、俺とコンは謎の少女と共に長く空へ伸びるかのような階段の1番下に居た。
コンも口調は落ち着いているものの、金色の瞳を軽く見開き耳尾を揺らしているので多少は驚いているみたいだね…。
「ここ…なつかしい」
先程まで無表情だった少女が、何処か目を輝かせてキョロキョロの辺りを見回す。
「まぁ、向こうのことは未子さんがウカミに話して何とかしてくれるかな。いざとなったら『門』で帰れるし」
「うむ、そうじゃの。……む?」
「コン?」
灯籠が無数に連なり階段の左右を妖しく彩る中、ふとコンが空を見上げて眉を顰める。
追いかけるように上を向くと…空は綺麗な小金色ではなく、不気味な紫色に滲んでいた。
「紳人…ちと、予想外じゃ」
「何となく分かる気がするけれど。聞かせて欲しいな」
「うむ。結論から言うと、『門』が開けぬ。そこから入って来たわけではないことやこの場所が異質なのが原因じゃろう」
「なるほどね…」
コンの頭にぽふっと手を乗せて頭を撫でると、こんな時でも嬉しそうに微笑んでくれる。
「まぁということは、ここで起きてる問題を解決すれば良いってことでしょう?なら、俺とコンなら大丈夫だよ」
「うむ、全くじゃ!わしらの力でこの迷子共々、何とかしてやろうぞ!」
「おー!」
「……お〜」
一念発起し、えいえいおーと拳を上に突き出す俺たち。
それに一拍置いて雅な少女も袖を垂らしながら、ゆっくりと拳を突き出すのだった。
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