微睡みは、時の狭間で③
「し、紳人さん…えへへ…♪」
夢だ。目が覚めた瞬間、俺は自分が眠り夢に落ちた事を理解する。
何故なら…先程まで学校にいたにも関わらず、何故か俺は自宅のリビングに居た。
いや、それもあるけれどそんなこと瑣末な事でしかない。俺が此処が夢であることを理解した理由、それは。
「コンの作ったご飯は、美味しいですか?」
割烹着姿のコンが俺を起こし、更には甲斐甲斐しく着替えを手伝いあまつさえ絶品の料理を用意して見せたからである。
極め付けはこの一人称と口調の違い。本神が見たらどう思うかな…?
「うん。凄く美味しいよ、コン」
「良かった!おかわりもいっぱいあります、遠慮なく食べてくださいね」
橙色の髪と狐の耳尾を揺らしつつ柔らかく瞳を細める。
見た目も声も同じなのにこうも違うのだから、チグハグで何だか不思議気持ち。
けれど…うん。こういうコンも悪くない。
「あ、紳人さん。口元に米粒が」
「ん?此処かな…あれ、無い」
「ふふっ反対ですよ。此処です、ちゅっ♪」
「----」
コンの唇が俺の唇スレスレに吸い付く。
目を丸くして息を呑む中、ちろりと舌を見せられるとその上には米粒が一つ乗っていた。
それをペロリと平らげ…コンはくすりと笑う。
それはまるで、美味しいを堪能するみたいに。
「コン…」
「コラァ!!」
「「!?!?」」
バァン!!と激しい音を立てて玄関が外から開け放たれ、間も無く姿を見せたのは。
紺色の和服に身を包み橙色の艶やかな髪を靡かせ、耳と尾をピンと立て頰を膨らませる…紛れもなく本物の、俺のコンだった。
「後ろ尻尾を引かれる思いでわしは飛び出してきたというのに…お主だけ夢を楽しみおって!この浮気者ォ!」
「ち、ちがっ!俺は決して浮気なんて!」
「なればその手は何じゃ!?夢のわしだけ良い思いをするなんてズルすぎる、そこを変われ!」
指を突きつけられ見やれば、俺は左手でビックリしたコン(夢)を抱き留めている。
慌てて手を離した瞬間凄い力で俺はコン(現)に引っ張られ、俺の胸に彼女が飛び込んできた。
「あぁ、コンの紳人さん…!」
「違う!此奴はわしの紳人じゃ!」
「む〜!幾ら自分でも許せません、甘々新婚生活の邪魔は駄目ですっ!」
「何じゃと!?お前は既に結婚しておるのか!?」
「あぁ…夢の中だから、願望が形になることもある訳だね」
「紳人、お主というやつは全く♡ではない、くぅぅ!わしでもまだしておらぬことを…!」
四つん這いで詰め寄って来たコン(夢)。彼女が俺と夢の中で結婚済みと知り、コン(現)は悔しげに呻く。
そして、むぎゅっと此方の左腕に抱き付き俺の視界は二神のコンに包まれた。
「紳人さんはコンとイチャイチャしたいんです!」
「紳人はわしとラブラブしたいのじゃ!」
何だ、この可愛い空間。目の前に広がる光景こそが、夢そのものと言っても過言じゃない…!
「「うゃぁ!!」」
「おっとそこまで!」
「「!?」」
やがてヒートアップしたコンたちは、取っ組み合いを始めんとお互い組みつきそうになる。
咄嗟にその間に両手を入れると、ポンポンと両手をそれぞれの頭の上に乗せて優しく頭を撫でた。
「コン。俺は愛しのコンに、そんなことはしてほしくない。二神のどちらが痛い思いをしても、俺の心は痛いんだ」
「紳人…」
「紳人さん…」
コンたちの耳と尻尾がゆっくりと下がっていき、表情も柔らかくなっていくのでどうやら落ち着いてくれたみたい。
良かった…俺にとっては、どちらも大切なコンに間違いはないからね。
「でも、そろそろ行かなきゃ」
「あっ!」
そっと手を離し、俺のコンの手を引いて立ち上がる。
夢のコンも切なげな声を漏らし腰を浮かすけれど、俺はポンともう一度だけその頭の上に手を乗せた。
「またいつか、会えたら良いね」
「会えたら…今度こそコンとイチャイチャしてください、紳人さん!」
その言葉には敢えて返事を返さず、お互い小さく手を振りかえしてのさよならを交わす。
俺とコンは密着するほどに身を寄せ合いながら玄関へと歩き…一歩、外へと踏み出した。
「どちらのコンが好きですか?♪」
「それは勿論…ね」
「明言しないのは、意地悪じゃ!」
「ごめんごめん。俺はコンが好きだよ」
「むぅぅ〜!」
そこで待っていたウカミの問いに、俺は飾らない本心を口にするのだった。
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