第67話

微睡みは、時の狭間で①

「ふぁぁ…眠いねぇ、コン」

「うむぅ。わしもじゃよ紳人、ついうたた寝してしまいそうじゃ」


4月16日の木曜日。


日付が変わって約40分程度での帰宅となったが、俺もコンも『黄泉』での疲れでヘトヘトに立っていた。


なので辛うじて着替えを済ませるとそのまま布団に倒れ込み…気が付けば、朝を迎え今はこうして登校中である。


「でも、ウカミは凄いよ。ツクヨミを追いかけていた筈なのに朝も元気だったし」

「彼奴が本当に寝ておるのか。わしは今でも真剣に考える時がある」

「確かに…不眠体質とかじゃないと良いのだけれど」

「神はそんなものにはならぬよ」


不意にコンがくすくすと楽しそうに微笑み、橙色の髪や狐の耳と尾を揺らす。


「そっか、それなら良かった」


心底ホッとして、内心で胸を撫で下ろした。


彼女たちはいつも頑張ってくれているし今回は苦労もかけてしまったから、眠るときくらいは穏やかに過ごしてほしい。


「……」

「ん?コン、どうしたの?」


うんうんとひとりでに頷いていると、コンの金色の双眸が俺を一点に見つめていることに気付く。


「紳人」

「うん」

「明日、金曜日じゃな」

「いわゆる華金だね!」

「楽しみじゃのう…♡」

「?そう、だね。俺もそう思うよ」


スッと細められたコンの瞳。


それが何故だか…獲物を見つけた狐のそれに感じられて、ゾクッと背筋を何かが走る感覚がした。


「いや、いっそのこと今日の夜…」


キュッと指を絡めて繋いだ手をより固く繋ぎながらコンが何事かを口の中で呟く。


不穏というか落ち着かないけど、藪蛇を突くのも憚られるし聞かなかったことにしよう。うん!


「む、人が見えてきたのじゃ…続きはまた帰りに取っておくかの♪」

「名残惜しいけれど、仕方ないかな」


パッと手を離して隣を歩くコンは、普段と同じで楽しそうに微笑みながら尻尾を揺らしている。


どうやらさっき感じたのはただの身震いだったみたいだ。


季節の変わり目や春風邪かもしれない。帰ったら、念の為お薬を飲んでおこう。


「紳人、一時限目は何じゃったか」

「確か今日は国語のはず。ウカミの授業だね」

「彼奴…何も悪戯しなければ良いが」

「どうかなぁ」


コンと靴を履き替えながら軽口を交わす。


そして階段を上がって俺たちの教室、3-1へと入った。


「あ。おはよう紳人くん、コンちゃん…ふわぁ」

「おはようじゃ。しかし未子よ、何やら眠そうに見えるぞ?」

「そうなの。さっきまで元気だったのに、学校に着いてから眠くって。皆もそうみたいで、暖かいからかなぁ」


そこで待っていたのは眠そうに此方に手を振る未子さんと、所々机に突っ伏して寝ているクラスメイトたちだった。


悟や明もすっかり眠ってしまっていて、春の陽気だけとは思えない異質な光景に何処か浮ついていた意識がキュッと引き締まる。


「コン」

「うむ。何やら不思議な気配がする、しかし具体的な位置までは掴めぬ…気を付けるのじゃ」

「分かった。今は様子見しよう、下手に動いて大事にするのも良くない」

「その通りじゃな!なぁに、その内向こうから接触して来よう」


こくりと頷いたコン。神様絡みと見て、ほぼ間違いないようだ。


度々此処は神様関連で何かあるなぁ…もしかしたら、引き寄せる何かがあるのかもしれない。


今度、ウカミも交えて調査してみよう。そう思った時、件の宇賀御先生が教室へと入ってきた。

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