満ちゆく月、穏やかなる黄泉④
「そうだ。ツキ、ヨミ」
「はいです」
「何々?」
ひとしきり談笑し終えた後、この後どうしようかという流れになったので叶うならと思っていたことを提案してみることにした。
「夜の食国をまた歩いて見たいんだ。ほら、ヨミは覚えてるかな。俺と一緒に歩いてた時に話しかけてくれた人も居て」
「あぁあれかぁ。覚えてるよ、急にはしゃぐものだからボクもうびっくりしちゃった」
「突然話かけられたら、それこそびっくりしちゃうよ…」
あの時はヨミに連れられるまま此処に来て、歩いていたら一言『喋れるぞ』と話かけられたのである。
「お主はいつも行く先々で妙な縁を作るのう」
「俺から結びに行ってるつもりはあまり無いんだけどね」
「もし泥棒猫が居るようであれば、すぐに言うのじゃぞ!わしの紳人に手を出そうとする奴には、容赦せぬ!」
「す、ストレ」
「違うのじゃ!」
まぁちょっとした冗談はさておき。
「でもコン」
「む?」
「俺を本気で狙う人も神様も居ないから大丈夫だよ」
『……』
「え、あれ?コン?皆も…どうしたのさ」
あははと爽やかに笑って見せた、のだが。
どうしてか分からないけれど急に皆がぴたりと固まり、俺の顔を一点に凝視してきた。
流石に圧を感じて軽く仰け反りながら一神一神見回していく。
「紳人。お主は」
「うん」
「もう二度とわしの側から離れるでない…!」
「勿論生涯そのつもりだけど、どうしたの?」
「そ、そうか!なれば良いのじゃ…」
「?不思議なコン、可愛いなぁ」
「あぅぅぅ…!」
そして、コンから生涯一緒のお達しが下された。
そんな当たり前のことを念押ししてくるなんて…将来を約束した伴侶冥利に尽きるね。
「紳人、多分そうじゃないよ」
「え!?」
「天然とは何事も危険なのです」
「ちょっと」
「紳人…程々にしましょうね?」
「ウカミまで!?」
顔を赤くしてふりふりと身悶えるコンを見ていたら、ヨミとツキだけでなくウカミからもお小言をいただいてしまう。
弾にしてくれたら良かったけれど、素直なお小言は心に反省を促してきて痛い…!
「ってそうじゃないや!とりあえず、夜の食国を歩いてもいいかな」
「おっと、そんな話だったね。勿論構わないよ〜一緒に行こう!」
「皆で行けば楽しいですっ」
「よぉし!じゃあ夜の食国の案内、お願いします!」
話が大きく脱線していたのでそろそろ修正して。
俺たち三人は、ツクヨミの二神も入れた五人で八百重から夜の食国へと降り立つのだった。
「ふふ…」
「あら?どうされたんです、ツキ様?」
「いえ、楽しみでつい笑ってしまったです」
「そうですね…私もですよ」
なんて会話を、隣に聞きつつ。
〜〜〜〜〜
『喋れるぞ』
「シャベッタアア!!」
「すっごい既視感あるよ!?」
夜の食国に付いて数分。他の皆は道の端に避けて歩くのに、一人だけ此方へ歩いてくるからもしやと思ったらあの時の彼だった!
因みに、此処に居る人たちは時折青い炎のように揺らめいてボヤける。
肉体を持たず魂だけの存在だからだろう。
そんな彼も一言告げると、何処かへと去っていった。
「彼とは固い絆があると思うんだ、コン」
「そう…じゃと良いな、うむ」
「コン!?ツッコむことを諦めたらダメですよ…!」
流石に無理があったみたい。彼とはまた会えると信じて、俺たちは歩き出す。
俺とコンが先頭に、その後ろにウカミとツクヨミが並んでいる形だ。
「当然だけどお店とか宿って無いんだね」
「此処に居るのは魂だけです、基本的には」
「それならば必要は…基本的には、とはどういうことじゃ?」
ツキの気になる単語にコンが足を止めて振り返り、俺も釣られるように後ろを向いた。
「それはねぇ…」
阿吽の呼吸でツキの言葉を引き継いだヨミ。
そして。
「こういうこと、でございます」
「っ!?」
「コン---」
背後に黒い影が舞い降りたかと思えば、その正体を確認することもなく俺は縄に囚われ放たれた矢のようにあっという間の速さで何処かへと攫われてしまった。
「紳人ぉぉぉぉ!!」
どれだけ離れようと、俺の耳にはコンの慟哭が心を揺さぶるほどに聞こえていた。
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