満ちゆく月、穏やかなる黄泉②
「くぁぁ…」
「紳人、大きな欠伸だな。悪夢でも見たか?」
「悟たちにいつ追われるか気が気じゃないからね」
「安心しろ。今計画練ってる段階だから、もう間も無くだ」
「え?冗談だったんだけど…嘘でしょ?」
「ところがぎっちょん!」
「そんなバカな!?」
4月15日、良い子の日。
俺は夢の中でツクヨミたちに理不尽かもしれない怒られ方をした後、そのままコンに襲われ精魂尽き果てた後現実で目を覚ました。
最近、目覚めが日を重ねる毎に刺激が増してる気がする…コンの寝相で毎朝ドキドキさせられているのに、逢瀬まで迫られたとあっては身も心も保たない。
しかし、愛しいコンに求めて貰えるならそれくらいは男の甲斐性として受け止めるべきなのだろう。
「……贅沢な悩みなのかも」
「おうそうだ!お前ばかり柑ちゃんたちのような美人に囲まれやがって!なぁ明!?」
「うぇっ!?ぼ、僕もその…確かに、柑ちゃんも宇賀御先生も、綺麗だと思う、よ…?」
「ほら!」
「完全に巻き込まれてたけど!?」
小説を閉じてニコニコと俺たちの会話を見守っていた明も突然話を振られるものだから、困惑を隠せぬままそれでも答えてくれた。
優しすぎるかもしれない…けれどまぁ、本人が楽しそうにしているのなら良しとしよう。
『うぅ…明、本当にいっぱい笑うようになって…ありがとう二人とも!某も嬉しいぞ!!』
(泣きすぎだよラスマ。俺も悟も、そうしたいからしてるだけなんだから)
『何を言う紳人殿、だからこそ余計に嬉しいのだ!』
こんなにも彼の守護神たるラスマも、本人よりも涙を流して胸を熱くさせていることだし、ね。
「ねぇねぇ皆、この後体育どっちにするの?」
「わしと未子は屋内でバレーにするつもりじゃが。紳人、お主はどうする」
「そうなんだ。じゃあ、俺もバレーにしようかな」
「んむ、そうかそうか」
隣の席に座っていたコンと未子さんも此方の会話に混ざってきた。
野郎だけの会話も良いものだけど、やはり俺としてはコンも一緒に居てくれる方が嬉しいな。
「ねぇ、何だか今日の柑ちゃん…ちょっと大人っぽいね」
「そうかの?まぁそれは、紳人が一緒じゃから…な♪」
「はは、それは嬉しいね」
未子さんの女の勘とでも呼ぶべき察する能力は本当にドキッとする…!
夢の中とはいえ朝からあんなことがあったので、ドキドキが止まらない。
そんな未子さんの質問を受けて尚、コンはくすっと瞳を細めて微笑んだ。
それだけならいつもの彼女に見えただろう。でも、その尻尾の先はふりふりと彼女の体の前で揺れていた。
俺だけに見えるようにアピールしたそこは、その…秘密だけど言葉に困るとだけ言っておこう。
「相変わらず、従兄妹なのに仲良いんだから…家族ってそんなものかね?」
「本当、仲良し…」
やれやれと肩を竦める悟も、柔らかく笑う明や流石の未子さんさえも。
そのアピールだけは俺とコンだけに伝わるものだった。
〜〜〜〜〜
「紳人。本当に今日行くのかの?」
「あぁ!」
「?あの、紳人」
「あぁ!」
「こゃゃゃゃ」
「あぁ!」
「ふんぬ!」
「へぶぁ!?」
夜の0時前。俺とコンとウカミは、寝室の姿見に月を映して待っていた。
少しテンションがおかしくなっていたようだ、思い切り頰をコンの尻尾でボフン!とビンタされて正気を取り戻す。
勢いで会話をゴリ押そうとしたらいけないね…。
「よし、じゃあ行こうか」
「うむ!」
「はい♪」
もふもふの喜びを噛み締めながらコン、ウカミと目線を交わし三人で鏡に映る月へと手を伸ばした。
以前ヨミが語っていた『黄泉』の門を開く条件は、月が映っているところでなければならないということ。
であれば、これならきっと…!
そっと触れた指先に伝わる鏡の冷たさと、手の甲に重ねられたコンとウカミの温もり。
それらに温かな幸せを感じつつ、俺は祈るように呼びかけた。
「ツクヨミ」
瞬間。シャン、と鈴が鳴るような音と共に月が瞬いたかと思えば、とぷん…と指先が鏡の中に沈む。
そのまま徐々に前へと突き出していき、俺たちは鏡の門をくぐるのだった。
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