第65話
満ちゆく月、穏やかなる黄泉①
「……」
「「……」」
父さん、母さん。お元気ですか。
二人に大切に育ててもらった息子は今…、
「もっと会いに来なよ、君!」
「ちゃんと『黄泉』に来たのも一度きりです」
神様たちの前で、何故か正座させられています。
どうして俺がツクヨミの二神に怒られることになったのか。それはどうやら…臨死体験でしか彼女たちの前に行かなかったことが原因らしい。
〜〜〜〜〜
ついさっき。気付けばまた、俺は夢の中で目を覚ました。
そして気配を感じて背後を振り向けば、漆黒なドレスに身を包んで仁王立ちするヨミと、純白のドレスを纏い両手をお淑やかに前で組んだツキが立っていたのである。
何故彼女たちが夢枕に立っているのかは分からないけれど、その表情から怒気はヒシヒシと伝わった。
渾身のギャグ「怒気がムネムネ、なんつって⭐︎」をかまして一世一代の大笑いを取りに行こうかとも考えた。
でもね…目が、笑っていなかったんだ。どらちらとも。
ウケを取れたなら良いけれど失敗したらそのままあの世行きも有り得たので、とりあえず正座。
その矢先にあのお叱り、というわけだ。
〜〜〜〜〜
「いやごめん、俺もさその…決して二神を忘れていた訳じゃないんだ」
「毎日のように会ってるもんね」
「寧ろそれで忘れてたらそっちの方が問題でしたよ」
確かにそれは問題どころの騒ぎではない。
「ところで、どうやって俺の夢の中に?」
まさか現実でまた丑三つ時に姿を現したのだろうか、と思っていると俺の内心を見透かしたかのように一度微笑んでからツキが答えてくれた。
「紳人。眠るという行為は、実は生と死そして現実と夢の境目が曖昧になるものです。だからボクたちは、直接姿を見せなくてもこうして会えるわけです」
「なるほど…納得だ」
普通に名前を呼ばれるのも珍しく感じてきた気がするも、敢えて指摘はせず俺は素直に頷く。
そして、こう思った。
よし!話題を逸らせた!と。
「そんなことより!」
「はいっ!?」
突然ヨミが声を上げたので、反射的にビクッと驚いてしまった。
やっぱり、そう上手くはいかないよね…。
瞳の星々を思わせる煌めきを揺らしながら、ヨミはしゃがみ込んで俺と目線を突き合わせる。
「忙しいのは分かるけど、ボクらにもゆっくり会いに来てよね!」
「ボクたちはおくりびとではなくて神ですから…」
「善処します」
確かに、臨死体験はあの世往復便ではないし彼女たちもそんな状況下でしか話さないというのも複雑だろう。
今度はちゃんと心身とコンたちを伴って、ツクヨミの二神に顔を出そう。
「紳人」
「「わぁ!?」」
「うむうむ。今回は口説いておらんようじゃな、距離は近いが」
突然音もなく俺の隣に現れむぎゅっと抱きしめてきたコン。
そんな彼女に俺もヨミも驚き、ツキも軽く目を開けて驚きの色を滲ませた。
「む〜、意外と早かったね。このまま連れて行こうと思ったのに」
「え?やっぱりそのつもりだったの?」
「させるものか。夢であればわしとて入れるからな、絶対に紳人は渡さぬのじゃ!」
「いいよいいよ。今度はちゃんと、現実で会おうね」
「お待ちしてるです」
コンの腕と尻尾に包まれながら、俺はコンと一緒に彼女たちを見送る。
「……さて。折角二人きりになれたわけじゃし」
「ん?」
「美味しくいただくとするかの♡」
「へ!?いやあの、コンさんちょっと!あ、あ〜!」
ペロリ、と色っぽく舌舐めずりして金色の瞳で鋭く俺を見据えたコンは、そのまま俺を押し倒し…夢の中で半ば強引に愛を紡がせまくるのだった。
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