再び見える、小銀の乙女④

「では紳人。その質問に答える前に、先に此方から質問しても良いですか?」

「俺に?構わないよ、言ってみて」


今はもうしっかりパジャマを着たウカミちゃんから、逆に質問が飛んでくる。


「アレは…嫌、でしたか」

「---どちらかと言うと、その質問の方が嫌だなぁ」

「紳人をよく分かった上での質問じゃ…!」


少し申し訳なさそうに耳と尻尾を伏せられては強く言うことなんて出来ない。


それに、質問の内容も巧妙だ。


良いか悪いかではなく、好きか嫌いかで聞いてくるなんて。


俺もコンも彼女のことは心から大切に思っている。当然、蔑ろになんてしたくないし傷付けるなんて以ての外。


その表情や仕草が冗談だとしても、嫌だとはっきり告げるわけにはいかない。


何せ…決して嫌ではないのだから。


なので、俺はこういう場合諦めて素直にこういうことにしてる。


「嫌じゃない。でも、困る!」

「うんうん、紳人ならきっとそう言ってくれると思っていましたよ♪」

「全く…ちと甘すぎるかのう?」


と言いつつもご満悦なウカミちゃんに優しげな笑みを浮かべるコン。


「プリンいっぱい食べて来たから、甘くなっちゃったかもね」

「なれば、わしもお主も甘々なのは納得じゃな」


軽口を囁きながらコンの髪を拭き終えると、静かに俺にもたれかかりぽふぽふと耳で俺の頬を撫でた。


あぁ…可愛いし良い匂いだし、温かいし愛しいし!


今日もまた、コンのことが愛おしくてたまらない。


「紳人、私も撫でてください!」

「だぁめじゃ。今はウカミとて許さぬぞ」

「だそうなので、ごめんねウカミちゃん」

「そんな!あの時は撫でてくれたのに!」

「やはり以前の記憶が残っておるな!?」


コンと暫く愛を確かめ合うようにゆったり触れ合っていると、やがてウカミちゃんも隣に座ってなでなでを要求してくる。


しかし、今は夫婦の時間じゃとコンが待ったを掛けた。そんな家内に頭の上がらない俺は、微苦笑を浮かべてそれに賛同。


けれどウカミちゃんは両手を合わせ赤い瞳を潤ませて、昼ドラ一歩手前のようなことを言い始めた。


「勿論です!三人で組んず解れつしたではありませんか…♡」

「してないよね!?俺の耳にコンとウカミちゃんがあんなことやこんなことしただけだよね!?」

「それもそれで語弊あるのじゃ!息を吹きかけたりしただけじゃろ!?」


ワイワイと三人で賑やかなひと時を過ごしながら、今日もまた緩やかに終わっていく。


忘れられない思い出がまた一つ増えた1日だった。


「ところで、お二人はちゃんと今日の宿題は終わらせましたか?」

「ふっふっふ。抜かりはありませんよ先生、ちゃぁんとバッチリ……」

「バッチリ?」

「わ、忘れてました」

「わしもじゃあ…」


なるほどなるほどと頷いたウカミちゃん。次に顔を上げた時、その表情は。


「しっかりと、終わらせましょうね〜♪」

「ひぃぃ!」

「わしは神じゃからやらなくても」

「同じ神の私から出された宿題ですよ!保護者代わりとして許しません!」

「くぬぅぅ!」


有無を言わせぬ暗黒微笑と化していたのだった。


〜〜〜〜〜


「やれやれ、昨日は怖かったね」

「うむ。ウカミは強いのじゃ」


お仕事なので早めに家を出るウカミと、半ば強制的に行ってきますのぎゅ〜をさせられてから少し。


俺はいつものようにコンと一緒に家を出て、ゆったりと朝の通学路を歩いていた。


「何じゃか、こうしてお主と二人で登校するのも慣れたものじゃのう」

「確かにね。神様と一緒に登校しているなんて、未だに面白いよ」

「それも、もふもふのな?」


耳と尻尾をこれ見よがしに揺らしながらコンがニヤリと微笑む。


それがあまりにも可愛らしかったので…辺りに誰もいないのを確認してから、俺はコンに一歩近付いて目線を合わせた。


「あぁ。すっごくもふもふで…」

「む?」

「心から愛おしい、俺だけの神様だ」

「……此奴め♡」


ちゅっと短くキスを交わした俺とコン。


「手を繋いでいこう。皆にバレない内は、さ」

「うむっ♪」


そんな俺たちは愛を紡ぐようにそっと指を絡ませて、さっきまでよりも更にゆったりと歩き出すのだった。

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