第60話
幾度となく、時が過ぎようと①
鳥伊宅プリン騒動(仮)から一夜明け、4月9日の木曜日。
その日の昼休み。俺は…久しぶりに、コンと二人きりのお昼ご飯を食べていた。
勿論、俺の愛妻(を思って作った)弁当を。
「紳人」
「はい」
「どうしても…ダメかの?」
「だって、そういうのは…」
けれど問題が発生した。
「何故じゃ!誰も見ておらんのだぞ!?」
「でもコン、恥ずかしいよ!」
「良いではないか、良いではないか!口移しで弁当を食べさせてくれても良いじゃろう!」
そう。今は俺たち2人きりだからか、コンの甘え方が過激なのである…!
それだけならまだ俺が恥じらいを堪えば良いんだけど、お預けする理由が一つ。
今俺たちが座っている校舎裏のベンチにて弁当を広げる前、コンはこんなことを言った。
『今、この周囲だけ簡易的な結界のようなものを貼ったのじゃ!手早く言えばテウの雨と同じもので、外からは人も神もわしらを見えない状態じゃな』
外からは誰からも見られることはない…それはつまり。
「紳人ぉ、早くぅ〜♪」
にひっと細めた瞳は色っぽさと本能的な鋭さが混じっており、ハッキリと告げている。
「お主を美味しく食べさせぬか〜♡」
「やっぱりそれが目的かぁ!?」
何が原因でスイッチが入ったのかは分からないけど!間違いなく今、俺はコンに狙われている…!
コンが求めてくれるのは素直に嬉しいし愛してるけど、もし万が一この状況がバレたら…コンのキスする姿や艶やかなところを他の人に見られでもしたら。
絶対に俺も、嫉妬で狂ってしまう!
あと高校でそういうことをするのは人間の倫理的にまずい…!
「コン、聞いてくれ」
「愛の告白かの?」
「それはいつでも思っているし求められる分囁くよ。でもそうじゃなくて、俺…此処だと嫉妬しちゃうからさ」
「嫉妬って、今は…あぁなるほどじゃな」
しなだれかかってくるコンを抱きしめ、その頰に手を当てながら切実に訴えかけた。
最初はチラッと辺りを確認し俺に視線を戻したコン。けれどすぐに、俺が言わんとすることが伝わったらしい。
「確かにそうじゃな…紳人のことを考えるあまり、他の者の存在を忘れておったわ。何かのきっかけで見られてしまっても癪じゃ、此処はグッと堪えよう」
「ありがとう、コン。君ならわかってくれると」
「ちゅっ…」
ホッと胸を撫で下ろした俺の唇を、ふにっと柔らかなコンの桜色の唇が塞いだ。
ぴとっ…と口の中で互いの舌先が唇に触れ合った後名残惜しげにコンの唇が離れていった。
「今はこれで我慢するとしよう。あと…あ〜んなら、良いじゃろ?いけずな紳人♪」
「……あぁ。良いよ、愛しいコン」
もしかして、全部コンの手のひらの上だったのでは?
そう思いつつも惚れた弱みで勝てない俺は、仰せのままに未来の奥様たるコン様の口へ甘い卵焼きを差し入れるのだった。
〜〜〜〜〜
「紳兄!」
「ん?あぁカナメ、久しぶり。元気してたかい?」
掃除を終えて教室へと戻る最中、不意に後ろから声を掛けられた。
周囲に人が少ないのを確認してから廊下の端へと寄って小声で話しかける。
カナメとは卒業式の前、つまり俺の誕生日の数日前に数日がループする事件の時に出会った。
原因はアナログ時計の付喪神である彼が人間に溶け込もうとした際、誤ってその権能とも呼ぶべき力が発動し時計の針が巡るようにループしてしまったからである。
今はもう無事解決し、春休みの間もこの学校にいたはずだけど…。
「うん!テウ姉も沢山お話ししてくれたから!」
「それは良かったのう…」
コンも何処か気掛かりだったようで、満面の笑顔で心底安堵しているみたいだ。
その様は窓から差し込む仄かな陽気に照らされてとても美しくて。
俺は、息をするのも忘れるくらいコンに見惚れてしまっていた。
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