甘い香り、心躍って③

「えっと…何がどうしてこうなったのか、未子さん説明出来る?」

「流石にわしも読み解けんのじゃ…」


困惑を隠し切れない俺とコン。


悲しげに目を伏せていた未子さんは、こくりと頷くと台所の方を指差した。


そこにあったのは…ボウルに泡立て器、そして置かれた牛乳や卵の容器。


「プリンを作ろうとした…のかな」


もし、それらだけだったら流石に俺も迷わず断言できただろう。


けれど、そこに並んでいたのはそれらだけじゃなくて。


「……何故、納豆やキノコがあるんじゃろうな?」


そう。プリンを作る上ではどう考えても似つかわしくない物が、点在していたのである!


「実はね、紳人くんがプリンを作ってくれるって話をしたらお母さんが『先ずは私たちで作ってみよっか!』って言って用意してくれたんだけど」

「その時…俺たちの中に潜む精神力が、とてつもない冒険を産んでしまったんだ…」


訥々と語り出した未子さんの言葉を引き継ぐようにして、そっと明を寝かせた悟が苦しげに呟いた。


どうしてこんなことに…!と拳を握り震わせる悟と、その肩をポンポンと慰めるように撫でる未子さん母。


この瞬間、俺とコンそしてウカミの三人は刹那の内に視線を交わし…ハッキリと頷く。


これ…『絶対悟の出来心に明が付き合わされただけだ』、と。


ちゃんと完食している以上食べ物を粗末にはしていない。


が、美味しく食べられたかと言われれば…明の安らかとは思えない顔を見れば明らかだ。


「紳人…せめて、明の思いをお前が継いでやってくれ!」

「貴様全てはこのための寸劇か!?」


隣のテーブルの上に置かれていた皿を差し出してくる悟。


その上にあるのはスプーンと、見るからに変な色をしているプリンだ…あぁ!よく見れば未子さん母、口元笑ってるね!?


高校生のノリにノリノリで…ややこしいな。


とりあえず。楽しげに付き合ってくれる優しいお母さんだな、と思いつつ俺は差し出されたプリンを凝視する。


「紳人?まさか、悩んでいるわけではあるまいな!」

「紳人さん。流石に、やめておいた方が良いかと…」


ぎゅっと俺の右腕を両手で掴むコンだけでなく、あの悪戯とプリンが大好きなウカミでさえも本気で心配そうに見つめてきた。


因みに一応先生なので、親御さんの前では敬称を付けているようだ。


「……良いだろう。明だけが苦しい思いをするのは、友達として見過ごせない」

「紳人!?」

「紳人さん!?」

「でも!一つ条件がある!」


条件、と言われて悟の頬がピクリと動く。


「それは、何だ?」


神妙な面持ちで問い掛ける悟に、俺は…こう言い放った。


「俺がそのプリンを完食した暁には、今度は俺が作るプリン…ネギプリンを食べてもらうぞ!!」

「ね、ネギプリンだとぉ!?」


悟が目を見開いて驚愕する。


説明しよう!ネギプリンとは!


以前俺が風邪を引いた時にコンが考案した、体に良いもの+美味しいもの=素晴らしいもの!という発想のもと誕生しかけた謎のプリンだ。


あの時は流石に未知すぎる…というか怪しすぎるので止めさせたのだけど。


プリンの奥深さはあくまで真っ当な材料の上で成り立っているのだと、証明するんだ!


「……いや、それならば寧ろこれ以上ないくらい美味しいプリンを食べさせてやるべきじゃろ」

「あっ」


悲報、ネギプリン誕生ならず。


「しょうがない。ネギプリン改め、紳人スペシャル•改を食べさせてやる!」

「死ぬ気のプリンなのじゃ!?」


俺の覚悟のプリンを見せてやる…!

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