甘い香り、心踊って②

「そういえば、ウカミはまだかな?」

「ふむ。会議が長引いておるのかもしれん」


卵や砂糖、牛乳に生クリームなどカゴに入れ後は支払いを済ませるのみとなった時スマホの画面を付けて現在時刻を確認。


学校が終わってから約40分前後、そろそろウカミも合流するはずだ。


「やれやれ。買い物デート、もう終わりなのじゃな」

「あはは…こんなちょっとした買い物も、デートって呼んでくれるのは嬉しいな。また改めてしようね」

「うむ!約束じゃぞっ♪」


こうした小さな約束が俺たちの日々を彩る。


そう思うと、どんな約束でも嬉しく思えてくるね。


ふにゅっと柔らかく目を細めて笑みを深めるコンの可愛らしさに、暫し見惚れる。


仄かに漂う花の香りも、一層その微笑みの魅力を際立たせ俺の心を固く掴んで離さない。


「うふふ♪今週末のデート、私も楽しみです!」

「いやそんな約束はした覚えは…ウカミいつの間に!?」


そして、突然俺の後ろから現れたウカミの両手もまた俺の肩を優しくもしっかりと離さない。


ふわりと甘い匂いも漂ってきて、零距離で感じる大人の色香につい身構えてしまう。


幸いにも彼女の胸は背中に当たっていない。肌の熱は感じるから、かなり近いけれど。


「ウカミ、いつ此方に来たのじゃ?あと紳人に近いぞ!」

「そうですねぇ…」


軽く振り返ると赤く煌めく瞳をそっと閉じて、顎に人差し指を当てて思い返すように呟く。


「ここで聞いたのは、コンのデートはもう終わりか〜って発言からです」

「ここで聞いたのは…?」


ウカミの発言が引っ掛かり、小首を傾げて重ねて問いかける。


幸いウカミはくすっと笑うと素直に答えを返してくれた。


「実は、二人が可愛い時間を過ごすんじゃないかと千里眼で見てました♪」

「「……」」


俺とコンが揃って口をあんぐりさせてしまう、とんでも回答を。


「おや?お二人とも、どうしましたか?」


目をぱちくりとさせて不思議そうに尻尾を?と曲げるウカミ。


スーツ姿でそんな仕草をされると、可愛いと綺麗が同時に押し寄せてくるのでどんな感情を抱けばいいか迷ってしまうな…。


「…まぁ、見られて困る話はしておらんが」

「うん。それでも、その…恥ずかしいのは恥ずかしいね」


コンと顔を見合わせ、彼女は自身の尻尾をギュッと抱きしめ俺は自分の頬をかいて照れ隠しをする。


「そんな可愛い反応をするから、目が離せないんですよね〜」


片手を俺の肩から離し、俺たちを包み込むように抱き締めるウカミ。


周囲にたまたま人がいなくて良かった。


幾ら家族仲良しといえど、公衆の面前でこんなに仲睦まじくするのはきっと俺たちだけ…。


いや、父さんと母さんも多分これくらいはするな…後でメッセージで聞いてみようかな。


「のぅ、ウカミ」

「はい」

「まさかとは思うが…わしらの逢瀬の時まで、覗いてはおらんよな?」

「……えへっ⭐︎」

「こらウカミ!笑って誤魔化すでない!」

「見てないってハッキリ言ってよ…!?」

「内緒です〜♪」

「「ウカミ〜!」」


……結局、ウカミの意味深な笑みの真偽は支払いを終えてスーパーを出ても分からず終いなのであった。


〜〜〜〜〜


「明ぅぅぅぅ!!」

「悟…くん、皆…ありが、とう…」


ガクッ。


「うわぁぁぁ!!」


糸の切れた人形のように気絶した明を抱え、慟哭する悟。


どうして、こんなことになったのだろう…。


ウカミの案内で未子さん宅へ辿り着いた俺たち。そんな俺たちを何処か悲しそうな顔で迎えた未子さんに、俺たちは顔を見合わせた。


そして、リビングへと案内された結果待ち受けていたのは…涙を湛え口を塞ぐ未子さんの母親と、今にも事切れそうな明とがむしゃらに呼びかける悟の姿だった。

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