第59話
甘い香り、心踊って①
「いやぁ…まさか、未子さんの家にお邪魔することになるなんてなぁ」
帰りのHRが済んだ後ウカミは少しだけ他の先生たちとの会議があるらしく、彼女を待つ間俺とコンは荷物を我が家に置いてからスーパーへ材料を買いに行くことにした。
未子さんと明と悟、三人は先に未子さんの家に先に行ってもらっている。
わざわざ此方に付いて来てもらうのも忍びないし、大人数でいきなりドンと押しかけるのも気が引けるからね。
突然お世話になるのでお昼ご飯も俺が作ろうとしたんだけど…寧ろお母さんが喜んで作ってくれるから、と未子さん本人から言われたので今回はそのお言葉に甘えさせてもらおう。
「何じゃ、えらく楽しそうではないか。んん?」
スーパーの中を歩きながら、右下からジッと目を細め暗黒微笑を浮かべるコン。これは、俺が女の子の家に行けるから舞い上がってると思われてるな!?
その証拠に俺の右腕にきゅっとコンの尻尾が巻き付けられている。
可愛らしい嫉妬と独占欲に愛おしさが湧き上がるが、そのままにしておくほど意地悪にはなれない。
思わずくすっと笑ってしまいながらも、俺はそっと彼女の方に身を寄せて囁いた。
「俺はただ、皆でこうして集まって遊ぶのが楽しいだけだよ。愛しているのはコンだけで、他の誰かに心移りする気なんて微塵もない」
「なれば良い、わしも紳人を愛しておるぞ!」
「ありがとうコン。本当に嬉しいな」
むふ〜!と満足げに笑うコンはやっぱり可愛い。
その柔らかそうな頰も、揺れて煌めく橙色の髪も、もふもふと堪能したくなるような耳と尻尾も。
彼女の全てが俺にとってはチャームポイントに思えて仕方ないのだ。
「……こういうの、面倒な女というやつじゃったか!?」
コンが足を止めハッと金色の瞳を見開き、耳もピンと伸ばし慌て始めた。
決して面倒くさいとも疎ましくも思っていないのに…あぁ、本当に大好きだなってコンの一挙手一投足を見るたび思う。
「心の底まで、君に骨抜きなんだけどな」
「うやっ……!」
「ん?あれ、声に出てた?」
顔を真っ赤にして、俺の腕に絡めた尻尾をキュッと恐らく無意識に締めたコン。
その様子から俺が心の中で呟いていた言葉が口から溢れてしまっていたと気付いた。
「そ、そうか…わしもその、紳人に…ゾッコンじゃぞ?」
「……ふふっ」
もじもじと指遊びしながら、ピトッと俺にくっついて潤んだ瞳を向ける未来の奥さん。
その魅力と言葉選びの可愛らしさについ我慢出来ず笑ってしまう。
「紳人?」
「いや、コンが俺のお嫁さんで本当に良かったなって」
「むぅ…揶揄いのつもりでは、ないようじゃな。恥ずかしくてたまらぬが…嬉しいのじゃ♪」
すりすり…と頬擦りされ、買い物カゴを右手に持ち替えてから左手でポンポンとその頭を撫でた。
チラリと周囲を見れば、主婦や親子連れから温かな眼差しを頂戴している。
何だか、小恥ずかしい。
けれどコンは気にせず、んぅ〜♪と声を漏らしながら俺に甘えて来ているので此処は我慢しようかな。
きっと仲良しの兄妹と思われているだろうからね、多少はスキンシップだと注目されないはず。
「コン。次は砂糖を見に行こう、ちょっと多めに入れてコンのは特別甘くしようか」
「おぉっ、是非ともそうしておくれ!」
堪えきれなくなったのか尻尾を離し今度は自身が俺の右腕に抱きつきながら、コンは砂糖のあるコーナーを指差して目を輝かせた。
これ、もしかしたら甘くしなくても甘々なのかも?と考えてから、大分俺も蕩けてるな…と自らに微苦笑してしまうのだった。
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