移りゆく季節、変わらぬ心②
「いやぁ…電車に乗る前に買ったあの豚まんは美味かったのう!」
「小さいけれどもちもちしてて、コンビニのものとはまた違う食感だったね」
「あのジューシーな餡と肉汁はほっぺたが落ちそうでした…」
あれから数時間、またしても電車に乗りっぱなしではあったけれど三人で話し込んでいたら瞬く間に時間は過ぎていった。
空が夕焼けに燃える中、旅の思い出を振り返りつつ俺とコンとウカミの三人は無事家に帰り着く。
「ただいまなのじゃ!」
「ただいまです〜♪」
「おかえり。コン、ウカミ」
ひとまず荷物やお土産を置いてふぅと一息入れた時、コンとウカミが此方へと振り返ってくすっと微笑むといつもの笑顔で迎えてくれた。
「「おかえり、紳人!」」
その眩しい笑顔に、思わず目を見開いて数秒惚けてしまう。
何気ない一言。そのはずなのに、心がこんなにも温かくなるなんて。
この時間だけは、光景だけは。死んでも見続けていたいと強く思った。
「あぁ…ただいま!」
〜〜〜〜〜
「それにしても、あと数日で春休みも終わりだね」
「まぁ学校が始まろうともわしらがいる場所は常に一緒じゃがな!」
「私だけ二人と離れちゃいます〜!」
「ウカミはのぅ…」
「先生だから仕方ない」
「私も弟くんたちと同じクラスメイトになるべきでした…一生の不覚です」
「そこまで!?」
あと、ウカミの色っぽさで生徒は無茶だと思う。
今の先生という立場でさえ生徒たちを魅了しているのに、同じクラスになろうと教師陣へ脅しをかけるべく遍く男子たちが徒党を組みかねない。
噂では既にウカミが俺のクラスの担任になって一週間もしないうちに、ひっそりと成り代わろうとした人たちも居たとか。
勿論コンの時も同様である。恋は盲目、なんてものじゃないね…いやはや恐ろしい。
「もしウカミが生徒じゃったら、逆にわしが先生になっておったかもな?」
「コンが先生……」
『わしが今日からこのクラスの担任となった神守 柑じゃ!よろしく頼むぞ!』
ふふんと勝気に口角を上げながらスチャッと眼鏡を掛け直すコンの姿が、ありありと想像できた。
コンのスーツ姿も可愛らしさの中に何処か背伸びした雰囲気があって、大変良き良きな「鼻の下が伸びておるぞ、お主」おっといけないぐへへ。
「こほん。それも良かったと思うよ、ただ…」
「ただ?」
「今度はコンの方が俺たちと離れ離れになるけど」
「わしは華の高校生じゃ!!」
「違いますよ!?」
赤い目を丸くしてツッコむウカミ。
流石の彼女もコンの転身ぶりには驚いてしまったみたいだ…因みに俺も驚いた、ウカミが言わなかったらその台詞は俺が叫んでいたくらいに。
「ま、まぁ…俺としてはそれくらい思ってもらえて嬉しい限りだね」
「紳人、三年生もずっと一緒じゃからな!」
「勿論さぁ」
ムギュッと俺の首に腕を回して抱きついてきたコンをそっと抱き留め、ポンポンとその背中を優しく撫でる。
時折尻尾も撫でるとうゃ〜♪と幸せそうな声を漏らすのが何とも可愛らしい。
「コンばっかりずるいですよ!えいっ♪」
「わっとと…ウカミ、何だか今日は距離感が近いね?」
「良いではありませんか。ね、コン?」
「ふむぅ、しょうがないのう!特別じゃぞっ」
コン様からのお許しが出たので、コンに左側からウカミに右側から抱き締められながら、其々の背中に腕を回して後ろ頭を撫でる。
コンの髪はふわふわと柔らかく、ウカミの髪はさらさらと滑らかだ。
役得だなぁ……とその幸せを噛み締めていた、けれど。
「紳人ぉ…」
「弟くぅん…」
「……!」
耳元で囁かれる甘い声と胸板に当たるコンとウカミの胸の感触で、俺の理性は急速に崩壊していく。
このままだと…ヤバい…!
神戸のプリンや肉まんも凄かったけど、こっちも凄まじい!
現実逃避でそんなことを考えながら、
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