第57話

移りゆく季節、変わらぬ心①

「ふぉぉぉ…!」

「これが噂に聞く、神戸プリンですかぁ!」

「朝早くから向かった甲斐があったね」


今日は4月4日。朝5時の起床で纏めてあった荷物を手に、足早に旅館を後にした俺たち。


欠伸を噛み殺しながら電車へと乗り込み、揺られること二時間近く。無事お昼前には神戸へと降り立つことができた。


流石は名産品というべきか運良く駅の構内で見つかり、プレミアムと名の付く神戸プリンを購入して今は駅のホームの待機所を利用させてもらっている。


神戸プリンはキャラメルソースが小袋に分けられており、自分の好みで調節することが可能になっているのが特徴だ。


更にこのプレミアムの方は要冷蔵つまり持ち歩ける時間に限りがある。


お店の店主に聞いた話では、通常よりもなめらかさが増しており柔らかさと美味しさは格別だそうだ!


そんなプリンを後生大事に抱えながら、ブンブンとコンは勿論ウカミすらも尻尾を激しく揺らして目を輝かせている。


それはまるで仲の良い姉妹みたいで、凄く可愛らしい。


「でも…本当に良いのかの?わしらだけで食べてしまっても…」

「良いんだよ、コン。今回の旅の目的はコンたちに俺から感謝を伝えるためのものなんだから」


今回、買うことには買えたのだが…残念ながら二個までしか購入出来なかった。人気商品なので、買い占めを防ぐためのものだろう。


かといって一口分けてもらうと折角の大好物を一口分食べられなくなっちゃう。


だから俺は食べないと言う選択に至った、というわけだぁ⭐︎


「ふむ…では甘えさせてもらおう」

「ありがとうございます、紳人」

「お安い御用!」


食べられないことこそ残念だけど。


愛しのコンと大切なウカミが喜んでくれるのなら、自分で食べる以上の喜びだからね。


渋々といった感じでコンはたっぷり、ウカミはまず少しだけキャラメルソースをかけてプリンをパクッと一口。


「「ンンンン!美味しいのじゃ(ですぅ)!!」」

「ふふっ…それは何よりだ♪」


これまで見てきた表情の中で一番と言っても過言ではない笑顔で、コンとウカミは喜びを露わにする。


……食べられないことは本当に構わない。


でも、どうしてだろう。


コンとウカミが喜色満面で感想を言い合う姿を見て、心の奥底でジリッと火花が散るみたいにプリンに嫉妬した。


「んぅ?どうしたのじゃ、紳人?」

「弟くん…」

「何でもない。ただ二神ふたりとも、本当にプリンが好きなんだね」


ついコンたちのことを見つめていたら、パチリと視線が重なる。


金色と赤色の煌めく瞳に覗き込まれ視線を隠すように瞼を閉じて笑みを浮かべた。


こんな心、とても見せられたものじゃないな…。


「……なぁ、紳人よ」

「ん?」

「お主は本当に可愛いやつじゃなぁ♪」

「うぇっ!?」

「貴方が買ってくれたものだから、こんなにも美味しいんですよ♪」

「な、何で…まさか!」

「読まずとも分かる。顔に書いておったぞ?」


瞳を細めながらニヤニヤと笑うものだから、思わず顔を手で拭いてみても当然インクも墨も付いてはいない。


「ごめん…嫉妬してたんだ。プリンめ〜って」

「良い良い、それくらいの方が可愛げがあるというもの。お主はちと大人すぎるんじゃ、前にも言うたであろうに」

「弟くんは我儘になっても良いんだってことも、お伝えしたはずですよ?」

「あはは、そうだね。頑張って変わっていくよ」

「「いや、それは良い(です)」」

「え?」


優しく橙色の髪と白銀の髪を揺らしながら首を振る二神に、今度は俺が目を丸くする番だった。


「変わることが成長とは限らぬ。前に言うたからといって、変化を望んでいるわけではないのじゃよ」

「変わらないことを楽しむ。それもまた、良いではありませんか。何度も同じ話で楽しめるんですから、ね?」


不意に俺をギュッと包むように抱き締めてくれるコンとウカミ。


じわり…と目頭が熱くなり、ありがとうと抱き締め返す。


暫くそうしていたけれど、やがてホームにもう直ぐ乗車予定の列車が来るとアナウンスが聞こえてきたのでそっと身を離す。


「おっと、そうじゃ紳人よ」

「ん?」

「はむ…ちゅっ♡」

「んむぅ!?」

「あらっ♪」


コンは一口食べると、何とそのまま俺にキスをしてきた!


にゅるんっと舌でプリンを口移しで入れられ、とても甘くて美味しかったけれど。


それがプリン本来の甘さなのかコンの口に残ったプリンの味わいなのか……にひっと艶やかに笑うコンに見惚れた俺には、何も分からなかった。


「甘々ですねぇ〜♪」


ウカミには、いつものように揶揄われてしまっていた。

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