移りゆく季節、変わらぬ心③

「……」

「ん?炊飯器を見てどうしたの、コン」


カタン、カタン。晩御飯を食べた後洗った皿を拭いては乾燥ラックへと並べていると、隣で腕を組みながら無言で炊飯器を見つめるコンが目に入った。


「いや何、わしらの縁も此処から始まったのだお思うと感慨深くてな」

「あぁ…懐かしいね。あの時は流石にビックリしたけど」


何度思い返しても、あれは運命的な出会いだったとしか思えない。


「何を言うか。最初にわしに聞いたことは朝ごはんを食べるかどうかじゃったというのに」

「あら、そうだったんですね。紳人らしいです」

「ウカミ…いやだって、ちょうど朝ごはん食べようとしていたからさ」


皿を洗い終えてコンの隣へ並ぶと、ウカミも反対側から並び立つ。


そうして暫し、思い出話に耽ることに。


「それに、現れるにしてもまさか炊飯器から自分の神様が来るとは思わないだろう?」

「慌てて『門』を開いて逃げちゃうからですよ!」

「し、仕方ないのじゃ!ウカミが怖くて、何処に開いたかなんて気にしておれんかったのじゃよ…」

「「盗み食いはいけないことだよ(ですよ)」」

「むぐぅ!それは、本当にすまんかった」


しゅんとしおらしくなるコンに、堪らず俺もウカミも小さく声を上げて笑ってしまった。


良いんですよとコンの頭を撫でるウカミとへにゃりと穏やかに笑うコンの姿は、二神ふたりが過ごしてきた時間の長さを思わせる。


俺も今はこんな温かい二神と家族なんだな…そう思うと、とても誇らしく感じた。


「さて…今日はもう少ししたら寝ちゃおうか。旅の疲れもあるだろうからね」

「わしらは神じゃが…いや、疲れてしまったの〜!これは腕枕でもしてもらわねば眠れぬのじゃ!」

「え?」

「私も保護者として頑張りましたから、ご褒美が欲しいです〜♪」

「あの」

「仕方ないのう。絶対変なことはするでないぞ?」

「ふふっ、どうでしょう?」

「これウカミ!」

「怒られちゃいました。弟くん慰めてください」


恐ろしく早い巻き込み。俺でも見逃したね。


「何か悪さをせぬよう、紳人の首にはわしの尻尾を巻いておくのじゃ」

「保険が怖すぎるんだけど…」


見張っておこうとか絶対駄目じゃぞ!とかではなく、いつでも臨死体験スイッチとは予想していなかったな…。


「では私は足にしましょうか」

「逃がさないつもり!?」


コンの尻尾が俺の首に、ウカミの尻尾が俺の足に迫るものだから思わず後退りしてしまう。


けれど、そんなことはお構いなしに仲良く手をワキワキとさせながら尻尾を近付けてくる愛しの妻と姉。


もふもふは大好きだけれど…痛いのは嫌なので、どうか1ミリ予測とズレてほしいものである。


「旦那様♡と踊ったら許してくれるか?」

「だ〜めよ!」

「紳人オンリーですから♪」

「しましょっ?」

「ほう…わしは駄目でウカミは良いと」

「いやこれはノリで返す関係上仕方ないと言うか、そんなつもりは微塵も!」

「浮気は…許さないのじゃ〜!」


コンからお怒りの電撃…ではなく、愛の鞭とも呼ぶべき尻尾が頭に巻き付けられた。


「貴方の心に、天誅天誅♡」


ゴキリ!


「オゥワ…オゥワ…オゥワ…」


配管工のような声を漏らし意識が遠のいていく中、ノリで返す時はよく考えて返そうと反省した。


〜〜〜〜〜


「……君はコンの旦那様なんだから、もう少し気を付けないと」

「ぐぅの音も出ません…!」


少し呆れた様子のヨミに、耳の痛いお小言を貰う俺なのだった。

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