第53話
二人から、鳴り響く①
「んじゃ、オレは一足先に戻るぜ!またな〜!」
「次は勝手に建てるでないぞぉ」
あれから暫く話し込んだ後、スサノオが皆に見送られつつ室を通って帰ると、シュン…と静かに建物ごと姿を消す。
続けてコトさんも晩ご飯に使った食器の後片付けに台所へと消えた。
「さて…何しようかな。寝るにはちょっと早いよね」
「そうじゃのう、わしの尻尾でももふもふするか?」
「是非お願いします!」
今夜まではアマ様とコトさんに甘えさせてもらうことになっているので、後ろ手を突いてぼんやりと考え込む。
直後、天の一声が降って来た。
0.5秒で土下座すると大袈裟じゃな…と微苦笑しながらコンが俺に背を向けて尻尾を差し出してくる。
「もふ…もふ…」
ムギュッと抱き締めて顔を埋めると、幸せが心の底から溢れ出してたまらない。
顔をグッと押し込めば頰までしっかりと包む中、柔らかな弾力もあり心地良さも最高だ。
そして甘い花の匂いと仄かな獣の匂いは混ざって香ばしいフレーバーとなりそれはまるでアロマオイルのようで
「おーい、帰ってくるのじゃ〜」
「ハッ!?」
いけない。またしても我を忘れてしまっていたみたいだ。
「のぅ…紳人よ、妾の尻尾ももふもふして良いのじゃぞ?」
「えっ良いんで「結構なのじゃ!」むぐぅ…」
「何故コンが答える!?」
未知なるもふもふに思わず顔を上げるけど、刹那の内に俺の頭はコンの尻尾に巻きつかれてしまう。
スー…ハー…、コンがいっぱいだぁ〜⭐︎^^
「弟くんは駄目みたいですね♪」
「ウカミは良いのか!?お前も尻尾があるのにもふられるのはコンだけなのじゃぞ!」
「私はもふって貰ったことありますので。一瞬だけですが」
「何をぅ!?」
アマ様がやいのやいの楽しそうにしている…けれど俺の体は脱力して自発的に動く気は起きない。
表情は見えないが多分頰を膨らませている。
「こうなれば…」
「何をする気じゃ!」
「むむむ〜!」
「アマ様、あまり力まれない方が」
アマ様の声のトーンがちょっとずつ落ちるごとに、妙な肌のざわつきが強くなっていく。
それはまるで…本能的にトラブルの気配に震える感覚にも似ていて。
「せいやぁ!!」
「っ!?」
ぽん!とアマ様の妙に熱い手のひらが俺の二の腕を叩くと、気持ち悪いほどに鼓動がドクンッ…と昂った。
そのまま。俺の意識は、一度ガクンッと強く揺らめき弾ける。
「うゃっ…!」
「弟くん!」
ボフン!と俺から湧き上がるような煙の中で数秒と経たず意識を取り戻すと、ひとまず体には異常は無いので返事を返した。
「「俺(僕)は大丈夫。皆は、ん?」」
今、何か声がおかしくなかった?ハマって聞こえたけれど…。
「あー……やってしもうたのじゃ」
「「アマ様何を、って」」
たはは〜と何かを誤魔化すように笑うアマ様を、晴れて行く煙の中でツッコもうとしたその時。
俺は……俺と目が合った。しかも、子供サイズの俺と。
「し、紳人が…二人おるのじゃが!?」
コンの叫びで漸く俺は自分の置かれた状況を理解する。
俺…増えちゃった、みたい。
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