試練の時、信念の鬨③
「紳人」
「
「わしが昨夜、何と言ったか覚えておるな?」
「
「寂しかった…寂しかったのじゃぞ!幾ら試練じゃったとはいえ!」
「
翌朝。室の入り口は嘘のようにあっさりと開いた。
『頑張ると良い。応援しているぞ』
大蛇に優しく見送られ、晴れやかな気分で外に出た俺を待っていたのは……暗黒微笑で尻尾を荒々しく揺らすコンだった。
明確な命の危機を感じ取り慌ててスサノオに助けを求めようとしたけれど。
「スサノオ…久しぶりに会って早々、わしの客人に試練を課すとはどういうことじゃ?大国主と違い、紳人はれっきとした人の子ぞ?」
「わ、悪が…あがッ…!」
既に縁側にて、普段からは考えられないほど威圧的なアマ様の尻尾に思い切り頭を締め付けられていた。
それはまるで輪ゴムで何重にも縛られ、今にも弾けそうなスイカの形になっている。
もしアレを食らったのが俺だったら、確実に耐えられなかったな…。
「これ紳人!聞いておるのか!」
「もがっ!?」
スサノオによって心の声でも呼べなかったのはコンも理解してくれているので、ただ俺の頭に巻き付けるだけだったコンの尻尾が軽く締め付けてくる。
ブンブンと激しく頷けば、しゅる…と尻尾は離れむぎゅっ!とコンが俺の腕の中に飛び込んできた。
「……紳人ぉ」
「コン…」
それに応えるようにぎゅっと強くコンを抱き締める。
眼前で揺れる可愛い狐の耳と尻尾、そして腕の中のコンの熱に癒される俺。
「愚弟を説教するのも姉の務め!お仕置きじゃべ〜!」
「ぐぁぁぁぁぁッ!!」
そしてお義父さんことスサノオもまた、アマ様の尻尾に手荒い…もとい手厚い抱擁を受けるのだった。
〜〜〜〜〜
「さて。改めて聞くが、何故紳人に突然試練を課したのじゃ?ウカミやコトが手助けしてくれねば今頃此奴は蛇の中じゃ」
「改めてって…オレが説明する前にアマ姉が俺の首を」
「妾は悲しい…久しぶりに血を分けた弟に会えたのに、この手で永遠に黄泉へ突き落とさなければならぬとは」
「待て!それは流石に急すぎだろ!?」
俺もそう思う。判断が早いッ!
「だから、その…娘が姉になったって言う程の人間がどんな奴か試してみたくなったんだよ。
アマ姉も気に入ってるみてぇだし…並々ならぬ関係の奴もいるようだからな」
アマ様の脇でニコニコ笑顔のコトさんやウカミ、そして抱き合う俺とコンを見てニッと口角を釣り上げるスサノオ。
「やれやれ。お前という奴は全く…。次からはちゃんと妾たちにも話を通すのじゃぞ?領域内に突然こんなもの建てられたら、ビックリするではないか」
「また閉じこもるか?」
「今度はお前を閉じ込めてやろう」
「勘弁してくれ」
あのスサノオさえアマ様には頭が上がらないんだな…もう揶揄うのはやめようね、俺。
アマ様に軽口を見せたスサノオは、彼女のたった一言で見事な土下座を見せてしまった。
「な、なぁアマ姉。あと一個だけ、紳人に試練を出しても…良いよな?」
「ふぅむ。紳人とコンが良いと言うのであれば、構わぬよ」
「だそうだ。どうする?紳人、コン」
「そうですねぇ…」
スサノオとしてもやはり娘は可愛いだろうし、悪いやつではないと分かってくれていてもやはり一度は己の目で見極めておきたいのかもしれない。
人間が神様と同じ屋根の下で過ごし婚約すら結んでいるというのだから。
もしスサノオほどの神様に太鼓判を押してもらえるのであれば、生涯に渡って胸を張れる。
何より…一度受けた試練だ、途中で投げ出すのは性分じゃない。
やるからには最後まで全力で、だ!
「コン」
「ふふっ…皆まで言うな、紳人。聞かずとも分かる。やりたいのじゃろう?」
「流石だね。それで…良い、かな」
「夫の意思を尊重するのも良き妻の証。やるだけやってみるのじゃ、わしが見ておるしいざとなれば必ず助けるから安心せい!」
「ありがとう、コン」
さわさわと優しく頭を撫でると幸せそうにコンは目を細める。
色良い返事をもらったスサノオは、パシン!と豪快に手を打ち鳴らすと立ち上がり高らかにこう宣言するのだった。
「よっしゃ!それじゃあ紳人、お前の最後の試練は…火攻めの試練だ!」
……やっぱりこの神様、豪快が過ぎるかもしれない。
一歩間違えればただの処刑になりかねないだろう試練に、早くも俺の心は震えるのだった。
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