試練の時、信念の鬨②
「頑張れよ〜!」
「えっちょっお義父さ」
「トゥ!」
「ヌォォ!?」
結局、問答無用とばかりに俺は蛇の
タン!と締められた障子に慌てて駆け寄るも、ガタガタと揺れるばかりで微塵も開く気配が無い。
どうやらスサノオの力で鍵を閉められてしまったらしく一晩明けるまで本当に開けてはくれないだろう。
「……」
恐る恐る、刺激しないようにゆっくりと振り返った。
『……』
デカい。というかほぼ零距離なんだけど!?目の前にいるようもう!あぁ舌がチロチロしてる!狙われてますねぇ!
いや待て、落ち着くんだ俺。
ここは『神隔世』でそこに存在している大蛇と来たらただの蛇じゃないのは明白だ。
ならばきっと話せば分かる『いただきます』わぁお礼儀正しい〜⭐︎
「じゃないよねぇ!?」
思わずセルフツッコミをかましてしまいながら、咄嗟に懐のスカーフを鷲掴みにしてブンブンと振り回す。
"困ったらこれを振り回して…"
パカッと開かれた大きな口を前に脳裏でふとウカミから渡されていたことを思い出したのだ。
物凄く!物凄く困ってます!お願いコン、ウカミ、助けてぇ!!
コン、コンさん、コン様ァ!
大蛇と思い切り目線が合いながらも逸らすことすら出来ず、必死に心の声をコンに向けて叫びながらスカーフを振り回す。
……けれど、コンは訪れない。もしかしたら以前のように声も遮断されているのかも。
くぅぅ…真夏のジャンボリーで俺はペロリと食べられてしまうのか…!
大切なスカーフを振り回すことを申し訳なく思いつつ、何度も全力で振り回して奇跡を希う。
『……ほう、懐かしいことをする』
「喋ッ…りますよね『神隔世』だし」
そして奇跡は起きた。
何と大蛇は口を閉じ俺の心に直接語りかけてきたのである。
直接脳内に…!って、これは前にやったね。
『何処でそれを知ったか分からぬが…汝にも支え合い、想い焦がれる相手がいるのだな』
「分かるんですか!」
まだ一言もコンのことを話していないのに、ピタリと当てるとは…相当名のある蛇神様なのかな。
『あぁ……彼奴もそうだったからな』
「彼奴?待てよ、スサノオ…蛇…試練。この三つが示すもの…そうか!」
『中々学があるようだ。そう、彼奴の名はアシハ』
「楽して助かる命が無いのは、何処も同じだな!」
『メダルは此処には無いぞ?』
残念。三つ揃ったから何かのコンボだと思ったのだけど…コンボの話ではなかったみたい。
気を取り直し、すっかり緊張の解れた体でその場に正座をして大蛇と向かい合う。
「もしかして、俺以外にもこの試練を受けた人がいるんです?」
『大昔にな。奴の名はそう…確か、
アシハラ……と言っていた』
「アシハラ…」
『汝たちには
「あぁ、なるほど…!」
キュッ!と手に持ったスカーフを首に巻き、その後聞き覚えのある神様の名前にポンと手を鳴らす。
こくりと頭を上下に動かし頷くような仕草を見せた大蛇。
のそ…と頭を地面に伏せると、そのまま大国主との思い出話を語ってくれた。
〜〜〜〜〜
とあることから自身の兄神たちの恨みを買ってしまった---ただの逆恨みなんだけどね---彼は、スサノオのいる根の国へと逃れる。
そこでスセリビメという女神様と恋に落ち、スセリビメの父であるスサノオへと挨拶に行ったところ。
「お前はアシハラと名乗れ。そしてこの蛇の室で寝泊まりするが良い」と言われたらしい。
まだその頃大蛇は然程賢くはなく訪れたアシハラに噛みつこうとしたのだが、彼はスセリビメに渡されていた比礼…現代で俺が今持っているスカーフのようなものを三回振るった。
すると、妙なことに大蛇の心は穏やかになり、アシハラに暫く独り言のように身の上話を聞かされた。
いつの間にか眠っていた大蛇が目を覚ますと、そこにはもう誰もおらず彼は出て行った後だったんだとか。
〜〜〜〜〜
「なるほど…そんなことが」
『恐らく、スサノオ様は試したのだろう。彼奴が神を娶るに相応しいのかどうかを』
大蛇はそう言って話を締め括る。スサノオが突然こんなことをした理由が、漸く分かった。
そしてウカミがスカーフを渡してきた理由も。
きっと彼女も、スサノオからこの話を聞いていたんだ。だから俺にこのスカーフを渡して、それに準えるように仕向けたのだろう。
ありがとう、ウカミ。君がこれを渡してくれなければ俺はきっと今頃丸呑みだった。
ありがとう、コン。君が俺を待っていてくれなかったら早々に諦めて身を投げていた。
『大切な者のため…今後も励めよ。そういえば汝、名は何と?』
「ありがとうございます!俺は神守紳人です」
『良い名前だ。さぁ紳人、そこは狭かろう、此方にもたれかかって眠るが良い』
「お言葉に甘えさせていただきますね…」
俺が通れそうな隙間を作ってくれて、渦巻くとぐろの中へと入る。
言われるままに背中を預けた俺は丁度良い温もりの中で目を閉じた。
『ついでだ。今度は、紳人。汝の話を聞かせてくれぬか?眠るまでの暇つぶしとして』
「では…そうだなぁ、可愛い神様との出会いから」
こうして、俺は月が沈むように静かな眠りへと落ちる最中。
訥々と足跡を辿るように大蛇へと語り続けた。
何処まで話したかは、ハッキリしないけれど…ずっと大蛇が耳を傾けていてくれたことだけは、感じていた。
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