第52話
試練の時、信念の鬨①
「紳人」
「お義父さん。どうされたんです?」
「準備出来たら縁側に来てくれ」
「分かりました」
歯磨きも終えて後は眠るだけとなった頃。
アマ様やコトさんに続いて寝室へ向かおうとしたらスサノオに声を掛けられた。
何処へ行くんだろうと縁側を覗いたら、いつの間にか隣に謎の小屋が出来ている。
スサノオはそこに向かっているみたい。
「もしかして男はあそこで寝るのかな?」
準備も何も寝間着(用意された和風のもの)にも着替え、いつでも眠る準備は万端だ。
「ふむぅ、こんな時間に何じゃろうか」
「久しぶりに話せる人間にあったから話したいのかも」
「なるほどのう…あまり話が長くなるようであれば、わしを心の声で呼ぶが良い。夜更かしは毒じゃし、わしが寂しくてたまらなくなるからの」
「分かった、そのときは必ずコンを呼ぶよ」
多分後者が本音だな…と思いながらも可愛らしい婚約者へと頷きを返す。
待っておるぞ、と名残惜しげにぎゅっと俺に抱きつき短いキスを交わしてアマ様たちの居る寝室へとコンも向かった。
「弟くん、お父様に呼ばれたんですか?」
「ウカミ。そうなんだ、寝る準備が出来たら来てくれって」
先に寝室へ向かっていたはずのウカミが、ひょこっと廊下からもふもふの耳尾を揺らしつつ此方を覗き込む。
こくりと頷いて肯定すると、赤い瞳を細め「そうですか…」と小さく呟きを漏らした。
その様子はまるで何かを思い出すかのようにも見えて。
「それじゃあ、これを持っていってください♪プレゼントです」
「これは…スカーフ?」
ウカミが懐から白いスカーフを取り出しても、あまり驚きはしなかった。
「嬉しいけれど、突然どうして…」
「そうですねぇ。あまり私の口から言うのも憚られますが…困ったらこれを振り回して、頑張ってください!」
「は、はぁ。よく分からないけど、とりあえず頑張りますね」
グッと胸の前で両手を握って応援してくれるウカミ。
何故突然コトさんに続いてウカミまで応援するのか不明だけど、まぁスサノオは悪い神様じゃないしお酒に付き合わされるとかかもしれない。
神様たちの間でスカーフを回すことが勘弁して!の合図だったりとか。
「よし!」
俺でもお酌くらいは出来るはず。
仄かに温かいスカーフに少しドキッとしながら、それを振り払うように少しだけ肌寒い縁側へ出た。
「おぉ、紳人。来たということは、準備出来たみたいだな」
「はい。でも俺、お義父さんにお酌する役目なんて務まるかどうか」
「酌?酒は飲むが、今回は無いぞ」
「あれ、そうなんですか。じゃあ一体…」
「よくぞ聞いてくれた!お前さんにはこの中で一晩…」
ガラッと襖を開いた先には、何とそこには部屋の中でぎっしりととぐろを巻く大蛇が。
「過ごしてもらうぞ⭐︎」
「お酒持ってきても良いですか…?樽一杯くらい」
白い歯を見せてサムズアップするスサノオに、拒否するよりも先に大蛇を何とかする方法を考えてしまった。
「まぁまぁ…頑張れ、これも人が神と共にあるための試練だ」
それに、両肩をがっしりと掴まれては逃げ出せるはずもなく。
俺は改めて…目の前にいる人物は荒ぶる嵐の神スサノオなのだと自覚させられたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます