日の下で、荒ぶる風②
「そういえばコトさん」
「はい?」
コンとアマ様がウカミ審判の下、もふもふ尻尾相撲を始めてしまったのでそれを食い入るように見つめながらコトさんに話し掛ける。
ふと聞きたいことがあったからだ。
「コトさん以外に此処でお仕えしてる方たちってどちらにいるんです?」
初めて此処に来た時コトさんは自分以外に数名此処に仕えていると言っていた。
しかし、恐れ多くも何度も顔を出させてもらっているけれど、
「皆さんお仕事が早いですからね。炊事、掃除、洗濯…どれも私よりもお上手なので、あっという間に終わらせて裏方へ戻ってしまうんですよ」
「プロフェッショナルなんですね」
因みに表では殆ど口を開かないが、裏では皆仲良く過ごしているそうで。
その一言にホッと胸を撫で下ろす。
やっぱり働き詰めだと神様も疲れると思うから、のびのびと過ごす時間があるなら何よりだね。
「ふはは!どうじゃコン、妾のもふもふはまだまだこんなものではないぞ〜!」
「何をぅ!?紳人にわしのもふもふが1番じゃと言われたのじゃ、負けはせぬ!」
「ええい惚気か此奴めぇ!」
あ、コンが若干押され気味だ。頑張れ頑張れ♪
突然だけど、説明しよう!もふもふ尻尾相撲とは!
互いに背を向け相手の尻尾と自分の尻尾を重ね合わせ、押し相撲のようにそのもふもふで相手をその場から一歩でも動かせば勝ちというルールの相撲である。
何かぶつかり合いが生じた際、これで穏便に済ませるのだとか。
そんな素晴らしいものがあることを俺はさっき聞いた、けど…もっと早く知りたかったよ…!
「……ん?」
ふと、縁側から少し強い風が吹く。
珍しいな…『神隔世』では心地良い微風が吹くことはあっても、強風と言える程のものは無かったのに。
コトさんと一緒に不思議なこともあるもんだと縁側へ歩み寄り、カララと障子を開けた。
「おぉ、コトじゃあねぇか!どうだ?アマ姉は相変わらず元気か」
「やっぱりスサノオ様でしたか。おかえりなさいませ、今ももふもふ尻尾相撲で遊んでいますよ」
「そうかそうか…元気であれば、オレとしても一安心。神といえど、不調になることもあるからよ」
其処には身長2メートルはありそうな、腰に手を当てる快活な大男が立っていた。
風は彼を中心に吹いているらしく、ふぅと一息をつくと風が止み穏やかに桜吹雪が舞い始める。
羽織の下から筋骨隆々とした肉体が見え着物の上を腰で巻く様は、男らしいと呼ぶに相応しい。
コトさんも呼んだこの神様の名前は…スサノオ。
嵐と武の神と崇められる神様で、海原を治めるとも言われている。
もし俺の知る通りであれば、一時期はアマ様を怖がらせるほどの暴れっぷりを見せたはずだけど…しっかり仲直りも済ませているみたいだ。
「お?お前さん…もしかして人間か?」
「お初にお目にかかります、スサノオ様。自分は神守紳人と言います」
「……何つうか、随分固えな。いや礼儀正しくて良いことだけど、そういうのは無しにしようぜ。
今のでお前さんが…紳人がどんな奴かは理解したつもりだ。これから、よろしく頼む!」
頭をボリボリ撫でながらむず痒そうに言うと、スサノオはニカッと晴れやかな笑顔を見せる。
良い神様だなと思いながら、俺は頷き差し出された大きな手に包まれるようにして固く握手を交わすのだった。
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