第51話

日の下で、荒ぶる風①

此処は『神隔世』の中心、アマ様の領域『天岩戸』。


その一角かつ最も大きな部屋であるアマ様の部屋に、以前と同じように案内された。


…はずなんだけど。


「あの、アマ様」

「……何じゃ」


ギュッと狼の耳を伏せ、見るからに不機嫌そうな表情で最奥の座に座るアマ様。


そんな彼女に恐る恐る声を掛けるとムスッとしたまま反応を返される。


ビッタンビッタン!威圧的に跳ね回る尻尾へ視線が吸い寄せられながら、愚問だと分かっていても聞かずには居られないことを聞いた。


「物凄く足が痛いんですが…」


俺はこの部屋に入れられてから、巫女かつお世話係のコトさんが用意した十露盤そろばん板の上に座らせ近くの柱に括り付けられた。


これは…江戸時代に行われたという拷問、石抱いしだきの基本スタイルである。


まだ石を足の上に乗せられてるいないだけ温情かな…と思ったけど、まず突然拷問されてる時点でおかしいと思うべきだよね。


「痛くなければ拷問にならんじゃろう?」

「多分そうではなくて、拷問されてる理由が聞きたいのかと…」


これは部屋の中央で普通に正座させられている、我が姉ことウカミからの注釈。白銀の耳と尻尾はやや力なく揺れている。


「そうじゃそうじゃ!アマ様といえどわしの紳人に痛いことをするのは許さぬぞ!」


これはウカミの隣で最高神たるアマ様のお説教だからと一応正座しているが、毅然とピンと耳も尻尾も立てる我が愛しの婚約者コンの発言。


橙色の髪も耳が揺れ動くのに合わせて僅かに靡いていて、凄く綺麗だ。


暫し痛みを忘れてコンに見惚れていると…ゆっくりと立ち上がり、数段の階段を降り此方へと近付きながらその御口おくちを開かれる。


「何故、か…そんなものは決まっておろう」

「俺が何か粗相をしたから、とか?」


白い髪と耳や尻尾をふわりとさせ静かに頷くアマ様。その際、額の朱い紋様が見えた。


「……妾のこと、無視したじゃろ」

「へ?」

「それにこの自慢の耳と尻尾に触りたくないって!不敬なのじゃ!む〜!」


ウカミと同じお姉さん然としているのに、涙ぐんで頰を膨らませる様はコンのように可愛らしい。


立派な紋様もあるし、れっきとした日本最高神の分体なんだよね…?


いや、だから必ずしも厳格でなければならないとは思わないし言わないけども。


「要するに…」

「紳人さんに無視されて悲しかったんですよ」

「アマ様、その気持ちは分かるのじゃ…!」

「あれこれ俺が悪い流れ!?」


ウカミがキョトンとしてクスッとコトさんが笑い、うんうんと腕を組んでコンが便乗する。


「じゃよな、じゃよな!」


目を輝かせて俺の家族二人の方を見るとさっきまで反省したり憤慨していたのに、今やこくこく頷いて全面的に賛成してらっしゃるではないか。


そんな…此処に来て、まさかの裏切りだって!?


「ごめんなさいすれば、許してやろう」

「いやあのですね」

「ごめんなさいですよ!」

「ごめんなさいじゃぞ?」

「ごめんなさいしてください♪」

「ご、ごめんなさい…」


正しく、四面楚歌だ。


何だか釈然としないけれど…寂しがり屋の神様に寂しい思いをさせてしまった俺が悪いんだろう。素直に頭を下げた。


「よろしい。もう…無視してはいかんぞ?」

「はい、ごめんなさ」

「ほれ」

「もが!?」

『アマ様!?』


ごめんなサイ•サイシーと言いそうになったのを堪えた再度頭を下げようとした時、突然アマ様のご利益溢れていそうな谷間に抱き寄せられる。


神様全員が驚いた後、とたとたと慌てて駆け寄ったコンはやいやいアマ様と言い合いを始めた。


「あの、コトさん。アマ様が何をお考えなのか時折わからなくなるんですが…」

「大丈夫ですよ」

「何故です?」

「私にも分からないので♪」

「それで良いんですか!?」


やっぱり神様の中にも色んな神様がいるんだなあ…と思う、俺だった。


十露盤から降ろしてもらえたけれど、足が痺れて動けないや!

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