瞳輝き、尻尾ゆらめき③

もふもふとは何か。


それは、この世において癒しの8割を担うと言っても過言では無いものだ。


人にとって最も身近なもふもふと言えばぬいぐるみだよね。


でも、俺の場合はそうじゃない。


言わずもがな…コンとウカミの耳と尻尾である。


「ふぅむ、やはり行くなら神戸が良いと思うのじゃ!」

「神戸プリン…美味しそうですよね♪」


春休みの旅行先についてのんびりと話す二神ふたりの耳と尻尾は、其々それぞれ橙色と白銀の狐のもの。


当然もふもふは素晴らしく、神様であることも影響してかもふもふは俺が知る中で最高級。


いや寧ろもふもふの神様とさえ言えるよ!


まぁそんなこと言ったら…次こそコンによる尻尾漬けで、俺はもふもふ依存症になってしまうかもしれない。


流石に三年生に上がって早々、俺がコンから1ミリも離れられなくなっていたら従兄妹という嘘すらハリボテになる。


「どんな味じゃろうな〜!」

「百聞は一見に如かず。この舌で味わってこそですものね!」


しっかりとそこは理性で踏み留まらなければ。


少しでも平穏な学校生活の為に!


まぁ秘密の露呈さえ防げれば、それは確約されてるかな?


コン以外に俺を狙ってる人は居ないしね。


コンは神様にも人間にも狙われるくらい可愛いけれど…俺が絶対守るから、其処も大丈夫。


ウカミだって学校全体の男子、もしかしたら先生からも羨望の眼差しを向けられている。


彼女も俺たちの大切な家族。邪なものは指一本触れさせるものか。


「…ま、焦ることもないかの。その気になれば明日にでも迎えるのじゃ」

「弟くんがお金を稼いでくれましたからね、大切にしましょう」


幸い、コンたちのもふもふは人間の中では俺にしか見えない。


形の良い耳も大きな尻尾も、どれだけ目の前で揺れ動こうと人々を魅了することはない訳だ。


いやはや…俺にはそれらが見えて本当にラッキーだ。


もし見えなかったら、悔しさのあまりアマ様の『天岩戸』に篭ってしまっていたと思う。


(妾はいつでも歓迎するぞ♪)

「ッ!?」

「紳人?どうしたのじゃ?」

「あっ、いや…今アマ様の声が」

「おかしいですね。アマ様が此方に来ている気配はしないのですが」

「じゃあ空耳だね。お騒がして申し訳ない」


ニコッと笑い、ソファに腰掛ける二神。


そういえば…アマ様も相当のもふもふをお持ちだった。


彼方あちらは狼だったから、少しワイルドな感じ。


しかし、撫で心地は極上だろう。


もしかしたらコンたちに匹敵するかもしれない。


流石に恐れ多くてモフってはいないので、今度お会いしたらそれとなくお願いしてみよう。


……あれ?これって浮気に入るのかな?


「……」


胸をよぎった疑問に思考が止まり、顎に手を当てて考える。


仮に触らせてもらえたとして。


恋愛感情を持って触るわけでは無いので、一見浮気じゃないようにも見える。


でももふもふが触りたいのなら、コンのを遠慮なく触らせて貰えば良い。


それをわざわざ他の耳や尻尾に触れようとするなら…浮気なのかも!?


……やっぱりアマ様にお願いするのは辞めておこう。


(何故じゃ!?)


心を鬼にして、聞こえたアマ様の嘆きも聞こえないフリ。


今度行く時はプリン持ってくので許してくださいね。


間も無く地平線の向こうに沈みそうな夕陽を眺めながら、そんなことを考えて。


俺はコンやウカミと一緒に、他愛もない雑談を始めるのだった。

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