泊まる人、回せ針⑤

これは、俺たち男子が悶々とした時間を過ごしていた時のお風呂場の出来事である。


〜〜〜〜〜


「……」

「ん?コンさん、ソワソワしてどうしたんです?」


わしとウカミで広げたお風呂で女子たちが各々体を洗う中、一足先に髪や耳と尻尾まで洗い終えたわしは湯船に浸かる。


そしてとあることが気になりチラチラとお風呂場の入り口を見ていたら、気付いた未子に声を掛けられた。


入り口を見つめながらそれにポツリと返す。


「……紳人が覗きに来ぬ」

「普通は来ないと思いますよ!?」

「やはりわしだけが入っていなければ、他の者に遠慮してしまうか!」

「多分、そうではないかと…」


何故彼奴はわしの裸を見に来ぬのじゃ!


ビチャン、ビチャン!尻尾で湯船の水面を叩くとウカミが微苦笑を溢した。


「あまりお兄さんってそんなことするイメージ無いですよね〜」

「悟くんたちもする感じはしないなぁ」


う〜んと思考を巡らせる真奈と、顎に手を当ててイメージしてみる未子。


「まぁ他の二人であれば扉の前に来た時点で即座に帰らせるがな」

「それに弟くんとはいつも一緒に入ってるじゃないですか♪」

「「え?」」

「うむ。じゃから、覗き云々もあるがやはり何処か寂しく感じるのう」


いつも隣もしくは背中にある紳人の体温が無いことに、どうしても気が落ち込んでいるとポンポンとウカミがわしの頭を優しく撫でた。


「鳥伊さん。神様と一緒に暮らしてると、それが普通になるんですか?」

「心音ちゃん…それはちょっと分からないかも」


体を洗った未子と真奈が顔を見合わせながら、湯船に入り頭を悩ませる。


けれど、わしらからすれば何も気にすることなどない。


間も無くウカミも尻尾を整え流麗な仕草で入浴した。


因みに浴槽はこれで一杯になる程度の箱型である。


「紳人は優しいからな。もう少しこう、覗くならバレぬようにな!くらい言っておくべきじゃった」

「紳人くんといえば…コンさんと紳人くんの出会いって、どんな感じだったんですか?」

「あ!私も聞きたいです!」

「私ももう一度聞きたいですね〜」

「ふむ、なるほど。良かろう!長く…するのはのぼせかねん、簡潔に話そう」


全員が目を輝かせる。折角のお泊まり会じゃし、語ってやるのも一興か。


コホンと咳払いを挟むとアルバムを捲るように思い返し、つい穏やかな微笑みになりながらわしは語り始めた。


最初はウカミのプリンを盗み食いしてしまったことがきっかけで、炊飯器からこの家へとやってきたこと。


紳人が追い返すことなく朝ごはんを食べようと言ったこと。


名前が無いと言われコンと名前を付けてもらったこと。


もう2ヶ月近く経とうとしているのに、その日の一秒とて忘れられない始まりの日。


「思えばもう、あの時にはわしは彼奴に惚れておったのじゃろうな。


わしとの本当の初めての出会いを忘れておっても、関係ないと思わせてくれるくらいに」


そう話を締め括ると、とても愛おしいという想いが溢れ心も体もポカポカになっていた。


数秒余韻に浸るみたいに静かだった三人。


やがて誰からともなく瞳を細めると全員がにまぁと揶揄うような意地悪い笑みに変わる。


「そっか〜コンさんは紳人くん大好きなんだ〜」

「妬けちゃいますね!」

「聞いてる私たちの頬が緩んじゃいます♪」

「ぬやぁぁぁ何か恥ずかしいのじゃぁぁ!」


まるでのぼせてしまったかのように、耳と尻尾の先まで熱くなり暫く身悶えてしまうのじゃった。

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