泊まる人、回せ針③
「ぐおおお後少し!後少しでぇ!」
「頑張れ、悟くん…!」
恐らく…いやきっと明の応援のおかげで、凄まじい速さで宿題を終わらせていく悟。
決して俺が妬ましいとか拳入れてやるとかそんな感情に突き動かされた結果ではないはずだ。
そんな鬼気迫る悟の裏で、俺たちのツイスターゲームも佳境に差し掛かる。
くんずほぐれつ。下にコン、間近に真奈ちゃんと入り乱れながら必死に丸へ手足を伸ばす俺たち。
「皆体が柔らかいね〜…どうしよう、ウカミ先生」
「そうですねぇ」
プルプルと震える様を面白おかしく眺めていた未子さんたちが、進行役を止めて突然雑談をし始めた。
「で、出来れば早めに進行してくれるとありがたいのじゃが…!」
「私もあまり保たないですっ!」
切羽詰まった様子で目を見開くコンと、苦しそうに声をかける真奈ちゃん。
その二人に催促されてかは分からないがウカミが一つ頷くとにっこり微笑んで、すぐに人差し指を立てるとこんなことを言ってきた。
「ではこうしましょう♪今から接触は完全オッケーです!バランスを崩した人は負けのままで」
「紳人!」
「お兄さん!」
「ぬあああっ!?」
それだけならただの敗北条件変更だった。
しかしまるで鶴の一声とばかりに目の色を変えたコンたちは、下から尻尾で俺を引っ張ると同時に後ろから俺に体を押し付けてきたのだ。
「ほ〜れ紳人、諦めてわしに倒れ込むが良い♪」
「お兄さん…私の方でも良いんですよ?」
「バランスを崩すのは必ず俺なの!?」
お陰で二人の体にピッタリ挟まれ、前も後ろも女の子の柔らかさに襲われる事態に。
くうう何という盤外戦術!
人も神様も同じ作戦ということは、それだけこれが俺に有効だとバレている証拠だね!
ええい!やられはせんやられはせん、やられはせんぞ!
落ち着くんだ…まず1番マズイのはハッスルしてしまうこと。
コンは顔を赤くして「助平め♡」と笑ってくれるだろうが、この場でそんなことになれば俺は来たる始業式を独房で迎えかねない。
「おっと紳人くん大ピンチだ〜♪」
「弟くん頑張ってくださ〜い♪」
「君たちねぇ!」
「ぬやっ!?」
「わっ…!」
楽しそうに野次を出すウカミたちに思わず体を起こして振り向く。
でも、ほぼ密着している状態でそんなことをすれば…全員バランスを崩してしまうのは当然だった。
「コン…真奈ちゃ、むぐっ!?」
咄嗟に二人の下に入るように仰向けになると、俺に軽く引っ張られたコンと真奈ちゃんがその上に落ちてくる。
ドタっと音を響かせ落ちる俺。
その上からふにっとコンが顔に柔らかく被さり、真奈ちゃんは俺のお腹にぽふっと顔から倒れ込んだ。
「皆、怪我は無い?」
「大丈夫です。怪我はしないようになってるので♪」
「ウカミ先生、凄いんですね…」
心配そうな声の未子さんと穏やかに返すウカミ。
彼女の言う通り俺に大した痛みはなく、コンたちからも異常な声は聞こえない。
視界は塞がれているので何も分からないけど。
「っと、すまぬ紳人…大丈夫か?」
「うん。コンが柔らかかったからね」
「それは、わしというかその」
「?」
「……何でもないのじゃ」
顔を真っ赤にして俺から起き上がるコン。小首を傾げても返事は無いので、微笑みを残して真奈ちゃんを見る。
「はわわ…お兄さんの腹筋、カチカチです」
「変な肉が付いてないだけだよ」
「ペタペタしてもいいですか!?」
「恥ずかしいからやめようね」
ふんふんと鼻息荒く目を輝かせるくらいだから怪我もないみたい。
やんわりと断ると、シュンと肩を落とされた。ちょっと心苦しいけれど、仕方ないよね…。
「よっしゃ終わったァ!じゃあ次は俺が!」
「あら、ルーレットが壊れちゃいました。安物だったみたいですね〜」
「そんなぁ!?」
ついに悟は宿題を終わらせた。皆が拍手してそれを褒め称える。
飛ぶようにして此方にやってくるが、ルーレットが早くも壊れてしまったらしい。
大人しく、皆で交代交代にパーティーゲームをプレイし始めたが。
それは思いの外盛り上がり、夕飯時までわいわいと続けたのだった…。
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