第48話

泊まる人、回せ針①

「いやぁ。凄いところ住んでんだな、紳人たちって」

「あはは…」


2階にも幾つか部屋はあったが、それはどれも普通の内装って感じだった。


例に漏れずどの部屋も中々の広さだったけど。


一階の広々としたリビングへと戻りテレビ前のソファに俺とコンが乗り、部屋の中心にあるテーブルをウカミ、真奈ちゃん、悟、明の四人が囲む形で腰を落ち着けた。


そこからの第一声が悟のこれだったので笑って誤魔化す。


俺も知らない一軒家と化しているので、最早間取りの一つも分からず笑うしかない。


「やっぱり、先生って儲かるのか…なぁ明」

「うん…本当に、広いし凄い」


何も知らない男子二人が楽しそうに目を輝かせて話す中、事情を知る未子さんと真奈ちゃんの女子二人は俺と同様に微苦笑を浮かべる。


「まぁとりあえずさ!宿題…終わらせよ?お昼は皆食べてきてるだろうし、眠くならない内に!」

「答えは教えてあげられませんが、どれも簡単ですよ。ここで終わらせてい〜っぱい遊んじゃいましょう♪」

「マジですか!?よっしゃ明、パパッとやっちまおうぜ!」

「うん…!」

「頑張ってください、応援してますよっ」


ウカミの言葉に目の色を変えてやる気を出す悟が、パシパシと軽く明の肩を叩き荷物から宿題を取り出した。


明も頷き宿題を広げ、ラスマや未子さんたちに見守られながら二人の雑談しながらの宿題消化がスタート。


……したはずだったのに。


「春休みもあと10日以上あるんだ!遊ぼうぜ!」

「やっぱり…」


案の定開始から3分で、悟はシャーペンをプリントの上に放り投げ立ち上がってしまった。


はぁ…とコンと揃ってため息を吐く。こうも予想通りだと、彼の将来が心配だね。


「だってよぉ、こう問題見てると意識が遠くなっていくんだ。つまり、こいつを解くのは危険だってこと!」

「ただ悟くんが眠くなってるだけだと思うよ!?」

「プリント1枚なのに…」


あまりに宿題を嫌う悟に驚きを隠せない面々。


流石の明でさえ微苦笑を見せているくらいだ。因みに彼は、表面だけだがプリントの3分の1を解き終えている。


「頼む!1時間くらい遊んだら10分やるから!」

「逆だよね?普通そこは1時間頑張った後10分休憩だよ」

「そこを何とか!」

「値切りみたいに言われても!?」


とはいえ、無理矢理させて折角の気分を台無しにさせるのも忍びない。


仕方ない…此処は素直に遊ばせてあげよう。


そう思って口を開きかけた時、


「お兄さん、この家ってツイスターゲームあります?」

「えっ。どうだったかな、あったかもしれない」


真奈ちゃんが俺にひょんなことを聞いてきた。


「ありますよ〜ほら」


すると、ウカミがニコニコしながら何処からともなくツイスターゲームの箱を取り出す。


俺たちの角度からは見えたんだけど、今ウカミは思い切り何もない空間から手にした。


彼女たちが作ったこの場だから出来ることだろう…。


「それじゃあお兄さん、コンさん、ウカミさん、鳥伊さん!一緒に遊びましょ♪」

「あら、良いですね!」

「どんな遊びなのじゃ?」

「コンさん、それはね…」


わらわらとリビングの端に集まり、女の子たちがツイスターゲームのルールを楽しそうに確認する。


それに対し、立ち上がっていたはずの悟が無言で座り直した。


「紳人!何だか楽しそうじゃし一緒にやろうではないか。ほれほれ、早う来いっ!」

「っとと、慌てないでコン」


手を引かれるままに俺もその輪へと加わって。


「ぐおおおお!!」

「さ、悟くん…凄い…!」


何やら背後から熱気を感じたけれど、多分人が普段より多いからで気のせいだろうと判断するのだった。

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