春の訪れ、桜は何処へ③

「ふむふむ…」

「な、何です?」


ぐるぐると俺を中心に回って観察してくるサオリの視線に晒され、落ち着かなくて思わず訊ねてしまう。


「いやいや。アマテラスが一目置く人間がどんなものか、気になったものでな」

「アマ様を呼び捨てに…!?」


そんな神様が居るとは流石に聞いたことがない。あり得るとすれば、イザナギやイザナミだろうけど…。


そういえば『黄泉』に行ったのに、イザナミには会わなかったな。


イザナギを追いかけ未だに黄泉比良坂に居るのかも?


っと、思考が逸れた。


アマ様以前の神様となるとそんなにいないはず。


「うーむ…」

「ん?コン、何か悩みごと?」

「あぁ…紳人よ。どうも尻尾がざわつくのじゃが、桜の神に心当たりはあるかの?思い出せそうで思い出せんのじゃ」

「桜の神様、か…」


俺も流石に八百万の神全てに知識があるわけじゃないし、出会う神様の殆どはお初にお目にかかる神様ばかりだった。


正直期待に応えられるかは怪しいところ。とはいえ、試さずに諦めるのもコンの婚約者としては不甲斐ない。


やるしか…ないよね!


ウカミと談笑する謎の神様、サオリをこっそりと凝視する。


桜の神様…サクラ…ん?待てよ?


これは神話では無いが。確か桜には、古来より農作物の神様が宿るとされていたはず。


そしてその神様の名前は…。


「もしかして貴女は」

「ん?」


話を中断する無礼を承知でサオリに声を掛け、此方を向いたところで二の句を告げた。


「サ神と呼ばれている神様なのではありませんか?」

「おぉ!正解だ、神守紳人!よく勉強している」

「それは確か…農作物の神、じゃったな」


目を輝かせるサオリを横目にコンにこくりと頷く。


桜の神様、というより桜の語源とも言われる神様というべきか。


現代では桜と呼ばれるその花は、サ神が舞い降りるくら、だから桜と呼ばれるようになったとも言われている。


お花見は、それが枯れてしまわないように宴や貢物を捧げた風習の名残だね。


「やはりサオリ様がそうでしたか…すみません、このような形になってしまい」

「気にするな、ウカミよ。それに年数こそ多少私の方が長いが立場的にはお主やアマテラスの方が上だからな、楽にしてくれ」

「あら、そうですか?ではお言葉に甘えますね♪」

「よしよし。コンも神守…いや、紳人と敢えて呼ばせてもらおうか。紳人も好きにして良いぞ」

「うむ。わしらもウカミに倣うとするのじゃ」


何だか凄い神様が気まぐれに現れたなぁ…と思いつつ、俺とコンそしてウカミは歩きながら桜を愛でるように話をし始めた。


本当にサオリはふらりと現れただけで、何か大きな用事や重要な話があるわけではないみたい。


まぁ俺はただの男子高校生だし気兼ねなく来てもらっても全然大丈夫。


コンやウカミが拒まないのであれば、俺としても望むところだ。


こうして話すことで、万が一心に落とした影があってそれを照らしてあげられるのなら…ね。


「……そういえば、サオリ様。カム様たちはどうなさってますか?」

「カム様…」


不意にウカミが話題に持ち上げた聞き慣れない名前に、口の中で反芻しながら記憶を探ってみる…が、流石に思い当たらない。


完全にお手上げだ…このまま話を聞いてみよう。

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