春の訪れ、桜は何処へ①

『では皆さん、羽目を外しすぎないよう気を付けてください。来年度にまた会えるのを楽しみにしております』


そんな穏やかな校長先生の一言で終業式は締め括られた。


隣のコンと心の中で終わったね〜と笑いながら、礼をして前のクラスメイトに続いて体育館を後に。


今日から春休み!さぁて宿題を早々に終わらせて、遊び呆けるぞ〜!


〜〜〜〜〜


「は〜いそれじゃあこのまま紳人を生かして帰していいと思う奴手ぇ挙げて〜?」


そう思っていたのが、五分前まで。


俺は二年生最後のホームルームが終わった後、その場で男子生徒数名に取り押さえられ教室の中心へと連行された。


最早慣れたね。おかしいことだけど。


例に漏れず簀巻きにされながら周囲のクラスメイトを見るも俺以外の男子生徒は誰一人として手を挙げていない。


「確実に此処で仕留める気か…!」

「当たり前だろぉ?学校という安息の地が無ければ、お前は確実に柑ちゃんたちに良からぬことをする」


うんうんとしきりに俺以外の全員が頷く。


どちらかと言うと、襲われそうなのは俺の方だけれど。


誘惑されれば甘い蜜に飛びつく蝶のようにふらふらと誘われてしまうであろうことは確かだ。


それが花に擬態したカマキリみたいに、自分が食われてしまうと知っていても。


「そんなことしないよ」


良からぬことではなく俺もコンも望んでいることだからね。


「フッ…分かってねぇな紳人」

「どういうことかね悟ンくん」


ワトソンというにはあまりに頼りない悟に問いかけ、返ってきた返事は…予想の斜め先を言った。


「この際春休み中ずっと一緒なお前が羨ましいから、今のうち存分に仕留めておこうって訳だからな」

「唯の私怨じゃないか!?」


勿論下方向に。


「というより皆こんなことしてていいの?折角の春休み、少しでも長く味わいたくない?」

「他人の不幸は蜜の味って奴らが揃ってるぜ!」

「己の幸せよりも!?」


なんて奴らだ!覚悟してきてる人…ですよね…。


「まぁまぁ皆さん落ち着いて」

「姉さん!」

「宇賀御先生…」


何処からか取り出したメリケンサックやら釘バットを持った暴徒たちに、目の前をまっくらにされかけたその時。


救いの神が舞い降りた。


その綺麗な顔に、悪戯っぽい微笑みを湛えて。


「安心してください。だって」

「……だって?」


静かに目を閉じてポンと俺の両肩に手を乗せたウカミに、思わず催促してしまう。


「弟くんは私のバスタオル姿を見ても襲わなかった、優しい子なので♪」

「……ヴッ」

「あ、あれっ?皆?」


悲しいかな、これも毎度恒例になっているウカミのとんでも発言が飛び出した…のだが。


それを聞いた瞬間。男子生徒全員の時が止まったかと思えば、一人残らずドタドタとその場に崩れ落ちてしまった。


先程まで元気どころか有り余る憤怒を身に宿していたはずなのに…。


これは、まさか!


「……皆さん、あまりのショックで自己防衛に気絶しちゃいましたか」


人は己の限界を超えた時其々の防衛手段を取るという。


今回は、それに助けられたみたい…まぁ鶴の一声ならぬ神の宣告だし、さもありなん。


「酷い有様じゃな…死屍累々ではないか」


クラスの隅でこっそり眺めていたコンが微苦笑しながら俺の縄を解いてそう呟いた。


「マダイキテルヨー」


半ば彼らに同情する気持ちで、俺はカタコトを返す。

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