あの日から、瞬いて③

「そう、いえば…」

「ん?」


他愛もない雑談混じりに掃除を進めていると、不意に明がポツリと呟いた。


「此処で僕は悟くんと紳人くんに話しかけてもらって…少しずつ、皆と打ち解けるようになったんだ」

「そういやそうだったか。意外と思い出深いもんだな、此処も」


そうだね…と同意しながら遠い昔のようでまだ一月近くの出来事に思いを馳せる。


まだ学校に精神体でついて来ていたコンの視線に追われるように図書室へと足を踏み入れたら、そこには悟に話しかけられる明が居た。


けれど。当時の明は過去のいじめがきっかけで人とうまく話すことが出来ず、彼の守護神の『ラスマ』の応援も虚しく友達を作れない日々を過ごしていた。


また明が心から笑い、のびのびと学生生活を楽しめるようになってほしい。そのために彼の友人になってもらいたい。


その願いに純粋な気持ちで応えた俺と明は好きなものを共有できる友達になり、そこから少しずつ悟を始めとする色んな友達も作れるようになっていったのだ。


『……神守殿には、誠に感謝しておる。改めて礼を言おう』

(此方こそ素敵な縁をありがとう、ラスマ)


今でも顔を合わせればちょくちょく笑顔で話をさせてもらっている。


もし俺にいつもの面々と呼べるグループがあるとすれば、未子さん、悟、そして明の三人だろう。


あぁ、勿論コンとウカミも居るよ?あくまで『人間の』グループは、ということだね。


二神は常に一緒だから数えるどころか前提条件って感じかな…。


「そろそろ会いに行くとしよう」

「お、もう行くのか?」

「また後でね…」

「うぃ!二人もあとちょっと、頑張って」

「おう!」「うん!」


思い思いに返事する彼らと頷くラスマに手を振り、図書室を後にする。


いつでもふらりと集まって気兼ねなく過ごせる間柄。


そんな、親友とも呼べる存在は貴重だ。


来年度クラスが変わっても仲良くしてほしいな…出来れば穏便な形で。


そんな春休み明けへの一抹の不安と一縷の望みに賭けつつ、コンとウカミを探して次の候補…屋上前の踊り場へと足を運ぶ。


因みに俺は図書室でもう一つ、本の中に入り込むという特殊な現象に遭遇したのだが…あれは振り返る必要もないくらい、鮮明だね。


「……」


〜〜〜〜〜


「此処にも居ないかあ…」


移動している最中に5限目終了のチャイムが鳴り響いた。


今は休み時間である。


休み時間であれば堂々と練り歩けるので、やや足早に階段を上って覗き込んでみたが…コンとウカミの影も形もない。


どうやら不発だったようだ、出直そう。


「あ、そういえば」


此処はコンと一緒に初めて登校した3月2日のお昼に立ち寄り、精神体でご飯を食べられないことに涙するコンに微苦笑した場所だ。


もう去年とすら思えてしまいそうなほど慌ただしくも濃密な日々を過ごしてるよね、俺たちって。


楽しい思い出ばかりではなかったけど。


どれも大切な…コンとウカミとの思い出。これから先も忘れずにいたい。


「……おっと、忘れちゃいけないのがもう一神」


先程まで燦々と晴れていた筈の外に雨が降り始める。


されどその雨は、何処か優しい。


コンたちとの思い出は屋上にもあった。降りようとしていた体を反転させ、ガチャリと屋上への扉を開け放った。


「相変わらず何かと追われているようね、貴方は」

「こんにちはテウ。そんな君は今日も元気そうだ」


当然よ!と得意げに胸を張った土地神であるテウ。


ゆらりと靡かせる竜の尻尾は、綺麗の一言に尽きる。

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