あの日から、瞬いて②

掃除も間も無く終わるという頃。


そよ風と遠くのせせらぎに包まれながら、ほんの少しだけ手を止めて社を見つめる。


……何も、見えないな。


不思議に思い再び目を凝らしてじっと見るけど、それでも神様の姿は見えてこない。


「……」


残念、と思う気持ちよりもやっぱり、と思う気持ちの方が強かった。


だって此処には、神様が気配しか感じない。


雰囲気と言ってもいい。


それを感じるばかりで、今居る気配を感じることが出来ないのである。


つまり此処で何を願おうと聞き届けてくれる神様は…。


『我々を忘れてもらっては困るな、小僧』

(トコノメ。大丈夫、忘れてないよ)


半透明の巫女姿であるトコノメが、いつものように胸の内を読んで俺に語りかける。


流石にそろそろ慣れつつあるのでくすっと微笑みながら返事をした。


(此処でトコノメが未子さんの願いを叶えたからこそ、今があるんだから)


そしてそれにより、俺は神様がどんな存在なのかをハッキリと理解することとなる。


(そう思うと此処は俺にとっても縁のある場所だね)

『ではしっかりと最後まで掃除に励むが良いぞ?』

(仰せのままに)


恭しく礼をして見せれば、苦しゅうないと満更でもなさそうに反応するトコノメ。


そんな光景を見た未子さんは目を丸くしてキョトンとした顔に。


しかし、それも一瞬のことで俺の事情を知っている彼女はくすっと柔らかな微笑みを浮かべるのだった。


〜〜〜〜〜


「おぉ、紳人!もう持ち場は終わったのか?」

「お疲れ様…紳人くん」

「悟、明、お疲れ様ぁ。二人は図書室の清掃だったんだ」


コンとウカミに掃除が終わったことの報告をしようと思ったら、彼女たちは校舎裏には居なかった。


色々と探し回る中でふと立ち寄った図書室では、俺たちのクラスからは悟が隣のクラスからは明が此処の担当に選ばれたらしい。


二人は手分けして、床と机や椅子の上をゆったりと掃除をしていた。


「おうよ!ところで、何で図書室に来たんだ。サボりは感心しねえが…」

「そんなんじゃないさ。柑と姉さんを見なかった?」

「見て、ないよ。此処には僕らだけ」

「ありがとう。それにしても…何処に行ったんだろう」


揃って首を振る悟と明。


お礼を言ってから、腕を組んで思考を巡らせようとする。


「まぁまぁ、ちょっとくらい手伝ってけよ。宇賀御先生たちも違う掃除場を手伝ってるんだろうしさ」

「なるほど。うん、折角だし手伝わせてもらおうかな」

「紳人くん…よろしくね」

「よし来た!」


コン、ウカミ。もうちょっとだけ待っててね…此処の掃除が終わったら、すぐに行くよ。

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