第44話
あの日から、瞬いて①
「……明日でもう終業式かあ」
「あっという間だったね」
3月19日木曜日。終業式を明日に控えた今日は、午後の2時間で再び敷地内清掃を行う。
俺は未子さんと二人で、我が大社高校の裏山中腹にある小さな社とその周辺の清掃が担当だ。
班分けの発表の時『何故わしではないのじゃ!?』とコンはウカミに異議を申し立てたけど。
『くじ引きの結果です♪お掃除を頑張ったら、私の今日のプリンをあげますよ?』なんて言われ、目に炎を宿しながらウカミと一緒に校舎裏への清掃に向かって行った。
「コンさんは相変わらず、プリンに目が無いのが可愛いなぁ。今度また遊びに行く時は持っていくから!」
「そうしてくれると喜ぶよ、ありがとう」
掃除用具を持ってザッザッと土を踏み締めながら未子さんと歩く。
木々の合間にある畦道を彼女と歩いて登っていると、自然にあの日のことが思い浮かんだ。
とても切ない。けれど少しずつ、懐かしい思い出になりつつある出来事。
「懐かしいなぁ…といっても、1ヶ月前くらいだっけ」
「未子さん。やっぱり思い出すよね」
少し開けた場所に辿り着きそこにある小さな社を目にした時、未子さんがしみじみとした様子で呟いた。
どうやら彼女も丁度思い出していたみたい。
一瞬明るく返してしまう。けれど、俺だけじゃなく未子さんにとっても疼きが残る話なのですぐに口を閉ざした。
思い出になったとはいえ、まだ1ヶ月経ってないし闇雲に触れて良い話題じゃないよね…。
「紳人くん、大丈夫だよ」
「えっ?」
「ありがとう。私のこと、気遣ってくれて。でも…あれは悲しかったけど、私と紳人くんやコンさんたちが仲良くなるきっかけになったもの。
だから、一緒に思い出として笑ってほしいな」
「分かった。強いね、未子さんは」
本当に特別な思い出話なんだと思わせてくれる、木漏れ日のような優しい笑顔を浮かべる。
今もあの時も、心配いらなかったかな…そう思いながら早速掃除に取り掛かることにした。
といっても言うほど大したことはしない。
精々辺りの落ち葉を集めたり、手の届く範囲での清掃を行うくらいだ。
裏山ということもあってか寄りつく人はあまりいないらしい。
ポイ捨てされるゴミも無く、汚れも簡単に拭き取れる程度。
「こりゃあっという間だな…コンのところにも、早く戻れそう」
「ん〜!?どうかしたの〜!?」
「大丈夫ぅ!独り言だから!」
「そっか〜!」
ポソッと独り言を呟いて…ふと思った。
社ってことは、此処にも神様が居たのだろう。どんな神様だったのかな…?
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