憂う心、微笑む者③
「ただいまです〜」
「わぁっ!?」
「ぬやっ…!」
二人の唇が重なる直前。ガチャリと玄関の鍵が開けられ、ウカミが帰宅した。
俺とコンはリビングのソファに座っているので数秒後にはこの現場を見られてしまう。
トットッと軽やかな足音が近づく中、慌てて体を離した俺たち。
それでも肩を寄せ合いながら、咄嗟にテレビを見ているフリを決めた。
「ただいまです。弟くん、コン」
「おかえりなさい、ウカミ」
「おかえりなのじゃ」
リビングへの戸が開きウカミが帰宅。俺とコンが其々迎えると、くすっと嬉しそうに微笑みその耳を揺らしつつ荷物を手際良く片付ける。
(バレてないよね…?)
(バッチリじゃ、完璧な隠蔽工作であろう!)
その隙に目だけを動かし視線を合わせて心の声で会話した。
コンも自信たっぷりだし、キス…もしかしたらその先をしようとしていたこともバレてはいないだろう。
我ながら咄嗟にしては良い判断ができたと思うね!
誇らしげにほくそ笑む…が、そんな俺とコンにウカミは声を掛ける。
「弟くん、コン」
「はい?」
「んむ?」
「ちゅう」
「「!?」」
パジャマを抱えて脱衣場へ向かっていたウカミの口から放たれた音は、容易く心臓を鷲掴みにしてしまった。
「ふふ…最近ネズミの鳴き真似を練習してるんです、どうでしたか?」
「あ、あぁ。凄く堂に入っていたよ」
「全くじゃな…わしも、びっくりしてしもうた」
「良かったです!では、お風呂先に失礼しますね」
もしやバレたか?ダラダラと冷や汗をかく。
けれどウカミはそのまま上機嫌に尾を揺らして脱衣場の方へと消えていった。
「……本当に、バレてない?」
「安心せい。大丈夫じゃよ、恐らく」
ウカミが消えた方を振り向きながら、ヒソヒソと囁き合う。
あの神様に隠し事は出来ないのかもしれない…気を付けなければ。
「そうでした、言い忘れていたことが」
「ひゃいっ!?」
ガラッといきなりウカミが脱衣場から上半身だけ覗かせるものだから、心臓と共に跳ね上がり声が上擦ってしまった。
それを気にしないとばかりに目を細めたウカミ。
彼女はゆらりと艶かしく身動ぐと…こんなことを、囁いてくる。
「こっそりと、でお願いしますね♪」
それは覗きを?それとも…。
どちらを指すのか分からず、俺もコンもただ頷きを返すばかりだった。
〜〜〜〜〜
「プッリン、プッリン〜♪」
あれから少しして。俺たち三人は晩御飯を食べ終え、食後のデザートとしてプリンを食べていた。
尚、買い溜めしておいたスーパーのプリンである。
ウキウキと一口ごとに舌鼓を打つコンは、本当に可愛らしい。なでなでしたいね!
言えば撫でさせてくれるんだろう…でも。
今プリンを食べてる至福の時間を、違う喜びで上書きしてしまうのは勿体無い気がする。
どうせなら、其々別で味わえた方が嬉しいを何度も堪能できてお得だ。
「しかし…あれじゃな」
「どうしました?」
不意にしゅんとするコン。
それを不思議そうに見つめるウカミが小首を傾げると、コンは神妙な顔つきで面を上げた。
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