憂う心、微笑む者②
「……あぁ」
ポツリと、コンの唇から吐息が溢れた。
俺の頭をより強く抱き締め、さわさわと慈しむような手つきで撫で始める。
「こんなにも、簡単なことじゃったか」
そして静かに囁いた。まるで、絵本を読み聞かせる母親のように。
「お主への愛が、この温もりがあれば。幾らでも愛してあげられるのじゃ」
「うん。だから、君は立派な神様で可愛いお嫁さんで…一人前の母親になれる」
撫で受けながら顔を上げコンの瞳を見れば、ほんのりと潤んで煌めいている。
その上で色づく頰で微笑むものだから美しいという言葉以外思い浮かばない。
人も神も、必要ではなく愛から生まれるんだ。
想いが形となりやがて命となる。
「まだ、不安?もっとコンがどれだけ優しくて愛しいか伝えようか?」
「それはいつでも聞きたいのぅ、しかし今は敢えて。大丈夫じゃよ…わしはこうして紳人を抱きしめられる、なれば心配など要らぬ。じゃろ?」
「その通り!流石は俺の愛するコンだね」
コンの背中をポンポンと撫でてあげれば、瞬きの内にいつもの可愛らしい顔つきへ。
うん、やっぱり今はこれが1番好きだな。
母親の顔になるのは…もう少しだけ、先で良い。
だって、「コンの愛情を独り占め出来なくなるからね…」
「む?」
「ん?あ、あ〜……声に出ちゃった、かな」
コンにも聞こえないように心の中で吐露した呟きは、無意識の内に口を突いて出てしまった。
目を丸くするコン。そんな彼女に、思わず誤魔化すのも忘れて恐る恐る訊ねる。
「うむ。この耳でしかと」
チラリと自分の耳を見上げながら、コンは言う。
そのままニヤァ〜と微笑みがニヤけ顔へと変貌していき、嫌な予感に夢中で背後から近付くコンの尻尾に気付かなかった!
まずいと思った時には尻尾を体に巻きつけられ…瞬きしたら、逃げられなくなっていた!
「そうかそうか、ほぉ〜」
「うぐっ」
此方を揶揄う気満々のコンが俺の顔を覗き込めば、艶やかなその髪が揺れる。
同時にその甘い吐息や淡い花の香りが燻り俺の理性に爪を立て落ち着くことができない。
良いように弄ばれると分かっていても、抗えない魅力がそこにはあった。
「未来の自分に、果ては未来の子供にも嫉妬とはな」
「あぅ…流石に引いたよね…」
自分の子供に嫉妬しちゃうなんて、大人気ないにも程がある。
幾らコンといえど今回ばかりは…。
思わず視線を落として目を逸らすと、掛けられた言葉は思いがけないものだった。
「わしとおんなじじゃ♪」
「え?」
予想外のあまり顔を上げる。
その直後、コンの小さなてのひらにむにゅっと頰を挟まれた。
「わしとて未来の自分の幸せに嫉妬してたこと、忘れておらんか?やや子が産まれウカミも一緒に一つ屋根の下暮らす生活…幸せじゃけど、二人きりの時間が減ってしまうのはあまりに惜しい。
故にわしら二人、婚姻はせず高校卒業まで今の関係を楽しむことにしたのじゃから」
「うん…うん、その通りだ。すっかり忘れていたよ。1日ごとにコンに惚れ直しているから、あっという間に感じちゃったのかも」
「愛い奴め」
そして。どちらからともなく目を閉じて、俺とコンは互いの唇を……。
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