第43話

憂う心、微笑む者①

「紳人や」

「ん?」

「わしがママじゃ!」

「またウカミに何か吹き込まれたね!?」


ズル休みした翌日、何事もなく学校を終えると家に帰るなりコンがとんでもないことを言い始めた。


どうしましょうこれ?


何だか遠くから『私じゃないですよ〜』とおっとりした声が聞こえた気がするけど、まぁコンの突拍子もない行動の8割くらいウカミ絡みなので気のせいとしよう。


「クラスの女子おなごがな?男子おのこは常にとやらを求めておると言うてのう」

「ウカミじゃなかった…」

「聞けば、どうやら母性に甘えたい感情のことらしいではないか。紳人もきっとそうじゃと聞いて、なればというわけじゃよ!」


今度その女子とはお話しなければならないようだ。


まぁそれは明日以降にするとして、とりあえず今はコンの誤解を晴らすのが先決。


「いや、それは人によるんじゃないかな?皆が皆そんな母になってくれるかもしれなかった女性を探しては」

「ではお主はわしの胸には興味無いと…?」

「大好きです!!」


しゅんとした様子で自分の胸に手を当てるコンの言葉を食い気味に否定する。


「なれば今すぐ吸いたいか?」

「吸い…!?どうして母性からコンのむ、胸の話になるのさ!」


神様とはいえ、堂々と好きな女の子を前に胸と言い張るのはかなり恥ずかしい。


「母性、というものがわしは具体的にイメージ出来ぬ。しかし母親が子にまず行うことと言えば」

「授乳かぁ」

「うむ」


コンは両親を持たずして生まれた『逸れ神』だから、母親の愛というものを生まれながらにして受けなかった。


その分ウカミや色んな神様も気にかけてくれたし、今のコンから考えて良い環境で育つことができたのは確かだろう。


とはいえ、やはり知識として知っているものや実の母親からのものではない。


それが何処かズレた母性のイメージになっているのかも。


「でも、バブみなんてあまり気にしなくても……」


そこまで言いかけて、自ら口を閉ざす。


コンの顔が浮かばないものになっていたからだ。


ここに来て漸く、俺は自分自身の至らなさを痛感する。


コンはただ見聞きしたことをしゃにむに真似しようとしているのではない。



「……大丈夫だよ、コン」

「紳人…?」

「そんなこと心配なんてしなくて良い。コンは凄く優しい神様で、凄く可愛い俺の婚約者だ。


こんなにも毎日俺のことを愛して将来のことを考えてくれる君が、立派な親にならない訳がない」


そっとコンの肩を抱き寄せ、彼女の首元に顔を当てる。


「今、こうする俺のこと…どう感じてる?」

「それは勿論、愛おしいと」

「なら後は抱き締めるだけさ、俺もその気持ちもね」


俺に言われるままコンは俺の頭を包み込むように抱き締めた。


とても温かくて…良い匂いがする。幸せが溢れて止まらない。

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