まさかの里、いつかの未来④
あれだけ居た神使の殆どがいなくなり、コンやウカミと最早開き直ってその場を悠然と後にしようとした時。
「いやぁ…ごめんね、神守くん。まさかこんなことになるなんて思わなくてさ」
「シュエン!」
ポリポリと後ろ頭を掻き、1人の女の神使が気まずそうに歩み寄ってきた。
クネツはそんな彼女を明るい顔でシュエンと呼んだので、親しい仲なのだろう。
それにシュエンという名前には聞き覚えがある…そう、先程のギンとの会話の中で。
彼女がウカミたちを見たという発言がクネツを走らせ、結果俺たちが軽い里帰り的な感じで此処に足を踏み入れることになったと言いたいらしい。
「まぁ確かに話がえらい方向に進んじゃったけど。大丈夫ですよシュエンさん、貴女はただウカミたちを見たって話していただけですから」
「おぉ…随分、君は肝が据わってるね。本当に高校生?」
「よく言われます」
くりんとした藍色の瞳でややシュエンに驚かれるが、言われがちなので微苦笑混じりにさらりと返した。
「ふっふっふ…確かに其奴は高校生じゃが、ただの高校生ではないぞ?」
「ほう、それは気になりますねコン様」
「クネツも気になるです!」
仁王立ちで不敵に笑うコン。
その発言に神使たちが反応する中、俺は物凄く嫌な予感に駆られ考えるより先にコンに手を伸ばす。
「はぁいストップです弟くん♪」
「ウカミ!?」
しかしウカミの白銀の尻尾で、コンの口を塞ぐ前にパシッと腕を絡め取られてしまった!
「実はな…」
「ゴクリ」
「わしと紳人は…!」
「くっ!」
確実に俺とコンが婚約しているなんて広まったら、何処から怒りを買うか分からない!
最悪の場合、不敬と見なされ黄泉比良坂どころか『黄泉』そのものに叩き落とされるだろう。
いや…もしかしたら滅ッ!とされる可能性も!?
アマ様に許可を取ったとはいえ、だからと言って他の神様たちが認めるとは限らない。
俺がどうこう言われるのは構わないけれどコンやウカミまで蔑ろにされたとあっては、怒りで我を忘れてしまうのは分かりきっている。
こうなったら敢えて名付けた、秘奥義紳人スペシャルを…!
「従兄妹同士なんじゃ!」
「何と!?」
「やっぱり紳人さんはただものじゃないのですね!」
「へ?あ、あぁ…恵まれてるよ、凄く!ははは」
コン…凄いよ!俺の懸念を読み取って波風が立たないようにしてくれたんだね!?
思わず嬉しさに頬が緩むと、コンが俺の方にコソッと耳打ちした。
「ウカミだけ家族の絆を宣言するなんてズルいのじゃ。わしだってれっきとした家族なんじゃからな!」
ウカミへの対抗、である。
ま、まぁ。結果オーライだからよしとしよう、ね!
----こうして、俺はまたしても濃密な土日を過ごした。
春休みまで…もう、間も無く。そして卒業まではあと一年。
その時俺とコンの関係は、ウカミも入れた神守家はどうなっているのかな。
いつかの未来は意外とすぐそこなんだと自覚した時、心地良いそよ風はその未来を示すように青空へと吹き抜けていくのだった。
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