まさかの里、いつかの未来③

「……」

『……』

「弟くん…どうしたんでしょう?」


数多の視線に耐え切れず、俺は徐に目を閉じた。


そして沈黙は金。何かを語ることなくただその場に佇む。


最初はざわついていた神使たちも、俺が何も言わないのを見て固唾を呑んで何も言わない。


「何か、強者の余裕のようなものを感じるです…!」

「これが人間の力か!」


ウカミとクネツにギンの三神にんがそれぞれ、困惑と期待を滲ませた声を出す。


「……いや、これは」


対して、隣ではコンがやや乾いた笑みを感じさせる声音で囁いた。


今、俺の胸中はコンの察した通り。


----ここから、どうしよう。


思い切り選択を間違えちゃったねこれ。


素直に挨拶すれば良かったのに、己の中に潜む爆発力がとてつもない冒険を生んでしまったようだ。


ヤバい…目を開けられない。一挙手一投足をこうも注目されていては、迂闊なこともできないのである。


(紳人よ。此処から素直に挨拶した方が、1番火傷は軽く済むと思うのじゃ)

(コン!確かにそうだね…)

(やっぱり後に引けなくなっておったか、此奴め)

(わぁバレた)


完全に見抜かれていたらしい、コンに心の声で囁かれ素直に従うことにした。


聞いたところで、一時も恥ではない!


「あー…えっと、皆さんこんにちは」

『!』

「自分は、神守紳人って言います。コンの守護者です…それと」

「……♪」


目を開け姿勢を正すと、45度の最敬礼と共に名を名乗る。


初めに隣でふふんと得意げに立つコンを手で示し、続けてチラリと背後のウカミを見ると。


これでもかと赤い瞳を輝かせながら私は私はと自身の顔を指さしていた。


正直この里の主神とも呼ぶべきウカミをそんな紹介しても良いのか甚だ疑問だけど、コンと恋人で婚約者であると宣言するより幾分かはマシかもしれない。


「一応……ウカミの、弟です」

『ええええ!?』


当然の反応である。


「ウカミ様弟いらしたんですか!?」

「というか人間の弟なんて聞いたことないぞ!」

「ウカミ様ってご両神しんはれっきとした神様だったはず…」

「あのウカミ様を呼び捨てにするほどの仲らしい。只者ではないぞ、もしかしたらどなたかの擬態かも知れぬ」


いや何だか変な方に話が転がってきたな?


「紳人様!ご無礼を平にご容赦を!」

「わぁ!?其方さんはどちらさんなんです!?」


シュバッ!と目の前に1神の男の神使が俺の前に現れる。


そのまま軽く痙攣しながら、こんなことを言ってきた。


「貴方は神ですか!人間ですか!」

「人間ですぅ!」


やっぱりウカミを姉と呼ぶのはやり過ぎだったかもしれない…今後は迂闊に呼ばないように気を付けないと。


「そんな!お姉ちゃんとあんなに熱い夜を過ごしたじゃないですか…それを、忘れると!?」

「お風呂に入ったじゃろ!あとそれはわしが許しておらんぞ!」

「コンもウカミも落ち着いて?凄いことになってるから」


俺が慌てる前にコンが指摘してくれたので、冷静に合いの手を入れられた。


ナチュラルに心を読まれたことは気にしない。


「うおおおこうしてはおられん!方々に連絡を取らなければ!」

「ウチも知らせてくる!高天原新聞社に知らせれば号外スクープよ!」

「『神隔世』にも新聞が!?というか待って!皆、俺の話を…!」


わぁぁぁと蜘蛛の子を散らすように殆どが何処かへと走り去って行く。


……まずい、この世界の住神がこういう娯楽に飢えていることを忘れていた。


「って、こうしてる場合じゃない!コン、ウカミ!早く止めなきゃ!」

「んむ?大丈夫じゃろ」

「はい、問題ないですね」

「なして!?」

「アマ様が既に知っておるからのう」

「今更ですよ♪」

「あっ、そっかあ……」


日本の最高神に知られているのに、これ以上心配することなど何もない。


アマ様はその、少しポン…可愛らしいところがあるから正真正銘の主神だということも失念してたよ。


けれど新聞、新聞かぁ。


そんなもので大々的に存在が明るみに出たら俺…明日から此処に来れないかも?

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