まさかの里、いつかの未来②

「おーい、クネツ!急に飛び出して、どこ行ってたんだ?」

「ギン!ほら、シュエンが言ってたでしょ?ウカミ様たちを見たって」


あの後クネツを先頭に里の中へと足を踏み入れると、慌ただしそうに駆ける者や往来の端で談笑に興じる者など様々な様相が見えてきた。


共通しているのは、全員が狐だということ。


ウカミの里だし当然と言えば当然である。狐は神様の使い、と何処かで聞いたこともあるし。


そんな光景を眺めていた時のことだった。


道の向こうから男の神使が大振りに手を振りながら、此方へ駆け寄る。


ギンと呼ばれた彼はその名の通り銀色の髪と耳尾でほんの少し俺より背が高い。


20代の好青年といった風貌のギンは、コンやウカミを見ると血相を変えてクネツの両肩を掴みバッと引き剥がした。


「コラ!だからってコン様とウカミ様をお連れするなんて、お忙しいところだったらどうするんだ!」

「うぅ〜…ごめんなさい〜!」


そのままぐにぐにと頬を軽く引っ張るギン。


腕をパタパタさせて抵抗するクネツを見ていると、何だか二人が兄妹に見えて微笑ましく思えてつい笑顔になる。


「良いんですよ、此方での仕事は私の分身が担当してくれていますし」

「わしの方も気にせんで良いよ。わしはあくまで守護神、何か特別な役職があるわけでもないのじゃから」

「ありがたきお言葉…折角参られたのです、歓迎の宴でもご用意しましょうか?」


深々とお辞儀するギン。彼はどうやら礼儀正しい性格のようだ。


しかし、かといって必要以上に叱ったりせず今もポンポンとこっそりクネツの背中を撫でている。


優しい兄貴分なんだね。


「ギン、それはちょっと難しいかも。今日の夜には現世に帰っちゃうみたいで」

「おっと…そうなのか。すみません、大したおもてなしも出来ずに」

「それこそ気にするでないぞ?今回はわしとウカミの故郷とも呼ぶべき此処を…此奴に紹介するついでに寄ったまでじゃ」

「おや…其方の方は?お見かけしたことはありませんが」


ギンが俺の方を見て、小首を傾げた。


見たことがない…それもさもありなん。何せ俺は、


「いやその…コンの守護者で神守紳人って言います。コンとウカミのことを気にかけていただき、本当にありがとうございます」

「守護者…ということは、に、人間!?」


もしかしたら顔を知っているコンたちを見た時よりも驚いた様子で、一歩仰け反ってしまう。


流石に神使の里をアポ無しで訪れるのはまずかったかな…?


まぁ何かあれば素直に去るとしよう。


この場にいる誰にも迷惑はかけられないし、かけたくない。


「……」

「あの…ギンさん?」


スゥゥ……と不自然に深ぁく息を吸われるものだから、気になってしまいコンたちよりも一歩前に出て声をかけてみる。


すると、ギンの口から出たとは思えない発言が噴水のように飛び出した。


「皆ぁぁ!人間が此処に居るぞぉぉ!!」

「えええ!?」


やっぱりダメだったみたい!


慌てて俺はコンとウカミの手を握り、クネツたちの横を走り去ろうとした。


けれど、そんな暇もなく。


『本当!?わぁ凄い!人間だ!』

『マジかよ!此処に居るってことは俺らが見えてる!?』

『とても可愛らしいのね…嫌いじゃないわ!』


わらわらと顔を出す神使の皆様。


忍びもかくやという場所からも現れるものだから、俺は驚きが止まらない。


というか最後の神使の方、何で俵の中から出てきたの?お昼寝してました?


「おぉ…こんなに食いつくものなんじゃなぁ」

「入れ食い状態ですね♪」

「そんな呑気な!?」


気が付けば周囲を取り囲まれており、その視線が一身に向けられ何故だが恥ずかしい気持ちになる。


今すぐにでも隠れてしまいたいが…悲しいかな、隠れる場所などあるはずがない。


やむなく俺はコンとウカミの手を離し、いっそ開き直れと腕を組んで仁王立ちを決めた。

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