波打ち際、煌めく光③

「ビーチバレーをやるのじゃ!」


綿津海に着き、砂浜でパラソルを立て避暑地を作り終えた瞬間。


赤色のビキニを身に纏い、その豊かな胸を張ったアマ様が突然そんなことを言い出した。


まぁ荷物の中にビーチボールもあったし、これで遊ぶだろうとは予想していたけれど…結構本格的だ。


しかし、大事なことを忘れている。


「アマ様、ネットは要らないんですか?」


そう。バレーとはネット越しにボールを打ち合う競技、ネットが無ければ感覚的にはドッヂボールのようなものになってしまうのだ。


「ふっふっふ…案ずるでない紳人よ。この妾に抜かりはないわ!」


貴女だから心配な時もあるんですが…。


そう思い、チッチッと指を振るアマ様に無言で視線を送っていると同じように何か言いたげな顔をしているコトさんと目が合った。


コトさんは紫色のワンピース型の水着の上から灰色のパーカーを着込んでいる。


桃色の髪も後ろで三つ編みにしているので、お淑やかさとそこはかとない色っぽさがあるな…。


「紳人?」

「気のせいです」

「まだ何も言うておらぬが…」


決して邪なことを考えていたつもりはないけれど、何か事が起きてからでは遅い。すぐに土下座しながら謝罪する。


「見事な土下座ですね、弟くん」


顔を上げると、そこではウカミが一昨日見たフリル付きの黒ビキニがくすくすと楽しげに笑っていた。


形の良い胸やキュッと細まった腰、つい目が吸い寄せられる鼠径部。


そして白銀の尻尾や白い肌と黒い水着のコントラストは、大人びた雰囲気を感じさせつい目を奪われそうになる。


「やれやれ…して、アマ様よ。早速頼むのじゃ」

「んむ、任されよう」


谷間近くで水着がクロスする魅惑的な白色の水着を着たコンが、俺たちを見て微苦笑しながらアマ様に話しかける。


その姿は可愛らしさの中に魅惑が溢れており、橙色の艶めく髪やもふもふの尻尾は俺の心を掴んで離さない。


……二人きりだったら、確実に自分を抑えられなかった。


折角海に来ているのだからそれらしいことをして楽しまないとね!


コンにお願いされたアマ様は気前良く頷きパッと腕を振るえば、シャン…何処からか鈴の鳴る音が響きズズンッと何もないところから支柱と網が砂浜に現れる。


次いでサッと静かにコートが描かれた。


自分の土地とはいえ神様の力を大盤振る舞い…いや、これくらいは朝飯前なのかもしれない。


あ、因みに俺はちゃんとアマ様のお顔を見てたよ?ゆさっと揺れた胸を見てなんて、いませんとも。


「では、5名なので…何方か審判ですね」

「それなら俺が」

『紳人(さん)は絶対参加で』

「わぁお満場一致⭐︎」


コトさんが俺たちを見回しながらそんなことを言うので、此処は神様たちで楽しく遊んでもらおう。


そう考えての発言だったのだが、まさか全員に真剣な顔で止められるとは思わなんだ…皆が良いなら構わないけれど。


「勝ったペアって何かあるんです?例えばお茶とかジュースとか…」


……今思えば、この迂闊な俺の一言が全ての元凶だったかもしれない。


キラン!と全員の瞳の色が変わったかのような気がして、ビックリしているとウカミが微笑みを浮かべたままこんなことを言い放った。


「そうですね…今夜、弟くんと同じ部屋で眠れるというのはどうでしょう?」

「「それで!」」


何か、俺が景品になっている…それでもいつも通りと思えてしまうのは流石に慣れすぎかも。


「では、勿論わしと紳人がペアじゃよな!」

「うん、よろしく「ないのうそれは!此処は妾の土地なんじゃから、妾と組むべきであろう!」ゑ?」


頰を仄かに赤くさせながらピトッと肩を寄せてきた可愛いコンに頷く刹那、アマ様がそれを遮りコンの反対側に陣取った。


「いえいえアマ様。日頃頑張ってる私にこそ、彼を譲っていただくべきですよ」

「コトさん?何を言ってるんです?」

「駄目ですよ!言い出しっぺである私が、弟くんを独り占めするんです」

「ウカミ!?冗談も程々に」

「本気です♪」

「……」

「本気です♪」

「大事なことだった…」


一縷の望みをかけて嘘であることを期待したが、2回言うほどだなんて。


夏だけではなく海も、そして人間だけでなく神様も開放的な気分になるようである。


「これ!わしの紳人じゃぞ、お主ら!」


ワラワラと四方から俺は取り囲まれる中、コンがブンブンと尻尾を振って他の三神さんにんを引き離そうとする。


「のぉ、紳人!?」

「えっ?そりゃあ俺は…」

「弟くん!」

「紳人さん!」

「紳人!」


全員に詰め寄られ、俺は後退りを禁じ得ない。


このままでは埒が開かない…加えて、特定の誰かを選んだとしよう。


選ばれなかった三人により俺はゲーム中ノックアウトさせられた挙句、助け起こすのは誰かという新たな火種が生まれてしまいそうだ。


……かくなる上は!


「コン!ちょっとごめんよ!」

「なぬ!?」


全力で頭を下げてから…弾かれたように逃げ出した。


そしてすぐに木々の影へと紛れ逃げ回り、現在に至る。

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