第38話

波打ち際、煌めく光①

「……」


俺が向こうで二日を過ごしても、現実では1時間程しか経っていなかったらしい。


俺が泣きながらあれこれと話している時にはもうクラスの皆は教室に戻り、次の授業が幸いにも自習だったので其方に打ち込んでいた。


眠っていたのはほんの10分くらいで、優しく微笑むコンとウカミに連れられ教室へと戻れる。


その際、事情を知らない男子生徒たちからは両手に花だと鋭い視線を向けられたが…今回ばかりは許してほしい。


いやいつでも許してほしいけれどね?


そんなこんなで授業に復帰した俺。何とかその日の授業を終え…コンと一緒に帰り着くのだった。


「コン。俺、あれで良かったのかな…」

「他にやり方があった訳でもなく、其奴らがありがとうと言ったのじゃろう?なれば胸を張れ、お主は良くやったよ」

「……ありがとう、コン」


他に俺に出来ることなんて無かったし、彼らは俺を呼んだ時点で限界で…でも、もしかしたら今も彼らが生きて笑える道もあったんじゃないか、そう考えてしまう。


そんな迷宮に迷い込みそうになる俺を、コンの小さな手が俺の頭を撫でて宥めてくれた。


その温もりと匂いを感じながら深呼吸をして堪能もとい冷静になると、気持ちを切り替えて撫でる手に甘える。


「よしよし…普段のお主は甘えが足りぬ、もっとこうして好きなだけ甘えて良いのじゃぞ?」

「それはとても魅力的だけど。君の前では格好良くありたいから、たまに甘えさせておうかな」

「仕方ないのう。じゃが、惚れた女の前で自分を見せたいのと同じで、惚れた男の前で良き女でありたいと思うものなんじゃぞ?」


撫でると手を止めいきなりちゅっ…と瑞々しい唇が重ねられ、すぐにその口を離された。


金色の瞳と橙色に艶めく髪、桜色の瑞々しい唇をまじまじと見せつけられ俺は息を呑む。


至近距離で俺たちは見つめあっている。


その為照明が届かず、コンの煌めく瞳がより鮮明に映えるのだ。


「……俺には勿体なさすぎるほど、コンは良い女の子だよ」

「なぁに。紳人相手でなければ、わしも良い女にはなれておらぬ」


へにゃりとはにかみ笑いを浮かべつつ、耳をぴこぴこと動かす可愛さに俺の頰も緩み。


「コン」

「何じゃ?紳人」

「愛してる。もしいつか終わりがあるんだとしても、そんな遥か未来なんて気にしていられない」

「わしも愛しておるよ…ありもしない仮定なぞ、せんで良いぞ?」


コンが言うと、本当にそう思えてくるから不思議だ。もしかしたら嘘じゃないのかも?


夢を語り合う子供のようにはしゃぐ俺たち。


そんな二人きりの秘密の時間は、間もなく終わりを告げる。


「ただいま帰りました〜♪」

「おっ、ウカミが帰ってきたのじゃ」

「出迎えよう!」


此処からは家族団欒の時間。肩を並べて玄関へ迎えに行くと…ウカミは何やら片手に買い物袋を持っていた。


「あれ?ウカミ、何か買ったの?晩御飯ならいつも通り俺が…」

「いえいえ。食材ではありませんよ、これは……じゃんっ!」

「むっ…それは」


袋に手を入れ、その中身を一つウカミが広げ見せてくれる。


二つのハンガーが一つになったようなものに、黒地にフリルが付いており腰には半透明のパレオがついたそれは正しく…!


「水着…じゃな」

「水着だよね」

「はい、水着です♪」


目を丸くする俺とコンの反応に、うんうんと尻尾を揺らめかせながらウカミは何度も満足げに頷いた。

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