第37話

眠れる者、手向けの言葉①

「そういえば神守くん、この後はどうするの?」

「えっ?あ〜そうですね…一つ確認なんですけれど、ここら辺って鬼とか変なものとかって出ます?」

「あはは、前は居たけど鬼なんてもう一匹も居ないだろうし妖怪も皆山奥に消えて私も子供の頃に一度見たきりだよ」

「なるほど…」


鬼が一匹も居ないなら此処は桃太郎の世界じゃないし、妖怪も殆ど見ないなら主題ではないだろう。


……ふむ。その二つが知れただけでも、収穫だな。


というより、殆ど分かったとさえ言える。


まだ憶測の域を出てきないけれど…この物語は、


なら脱出する方法はないのかと言われるとそれは否だ。


『この物語を終わらせて』と何者かは明確に告げていた。


つまりは、解放を望まれる誰かが根幹に存在しているはず。


その誰かの物語なのだと仮定すれば…古風な世界観もその存在の強い心象風景の現れと納得できる。


要するに、馴染み深いんだ、この長閑さが。


「……あまりのんびりと構えても居られないかな」


中心にいるのが人であれ神であれ、途方もない年月が現実では経過している。一日でも早く出してあげたいし…俺も出たい。


「ん?」

「あぁいえ…お気になさらず!とりあえず、俺はそろそろ行きます。都はどちらですか?」

「もう日暮れじゃないの。せめて今日くらいは泊まって行きなさいな」

「流石に出会ったばかりで、これ以上してもらう訳には…」


それに一人暮らしの女性の家で寝泊まりしたなんてコンが知ったら、何て言われるか…。


"怨!!"

ガタガタガタ!


「ヒィ!?」

「あら、強い風」


脳裏でコンの声が聞こえたような気がしたと同時に、外と中を仕切る障子が激しく揺れ俺の背筋が凍えたように冷たくなる。


き、気のせい…だよね?うん、気のせいだ…けどまぁとりあえず。


「すみませんイセカさん…倉庫を借りても良いですか?そこで一晩泊まらせてください…」

「良いけど…本当に大丈夫?布団は来客が来ると思ってなくて、私の分しかないから一緒でも全然」

「なるほど添い寝と"怨!!!!"ぜひ倉庫で寝かせてください!わぁい紳人倉庫大好きぃ!!」

「変わってるのね…何だか風も強いみたいだから、眠る時は気を付けなさい」

「はい、ありがとうございます…」


先程よりも荒々しくそして今度は明確にコンの声が響き、背筋に爪を突き立てられてるかのような恐怖を感じで冷や汗が止まらない。


事実確認のつもりだったけど…下手なことは口に出すものじゃないね、気を付けよ。


あれ?というか何でコンの声が聞こえるんだ?しかもタイミング良く。


この世界の外からコンが何かしてるのだろうか…入って来ようとして、その反動で影響が出ているのかも。


コンが来てくれるとしたらこれ以上の幸せはない。


よし、俺は俺に出来ることをしよう!


ひとまず今は…。


「倉庫に泊まらせていただくお礼に、晩御飯は作らせてください!」

「何だか悪いことしてる気分になるけど…そこまで言われたら無碍にも出来ないね。良いでしょう、ご馳走になります!」

「はい!腕によりをかけてお作りしますよ」


倉庫に案内してもらい、氷室から魚やら野菜を選び魚は塩焼きに、野菜は細かく切って味噌で溶かし、同時進行で釜で炊いていたご飯も上手く炊け。


俺の好みでもある和風な晩御飯と相成った。


イセカからは好評を貰ったので、ホッと一安心である。


そんなこんなで楽しく夕餉の時間は過ぎて、夜。


氷室のある倉庫で凍えながら眠る…ことは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る