文字の羅列、回れ回れ③
「あら?貴方は…見ない格好ねぇ」
駆け寄った女性は、正に村に住む一人の女性といった和風の格好をしており髪も一部を後ろでゆったりと結えていた。
間違いなくこの世界の人物だろう。
俺の行動が取り返しのつかない影響を及ぼすとは思えないけど、誰かを解放しなければならない以上それまでは迂闊な行動は取れない。
「あー…いや、ちょっと訳ありでして…」
かと言って、海向こうから来たからと言えば言葉が通じる理由まで言い訳を重ねると信憑性が薄い。
遠いところから来たと言いたいところだけど、制服がこの世界にあるのかは怪しいところだ。
だからそれとなくぼかし触れてほしくなさそうに声を落として俯く。
これで誤魔化されてくれれば良いけれど…。
「そっか…他所様の家庭事情に触れるのも良くないわね。でも、その格好は今後も目立っちゃうよ?」
「うっ、それは」
痛いところを突かれて思わず口籠もる。
参ったな、この人優しいけれどそれ故に気が回るみたいだ。
むぅ…此処は無理矢理話を切り上げてその場を去るか?
「だから」
「ん?」
「とりあえず家に来なさい。服をあげましょう、弟のお古で良かったらだけど」
「い、良いんですか!?でもどうして…」
「そうねぇ…」
棚から牡丹餅とばかりに降って湧いた話に一度食い付いてから、すぐ冷静になり踏み留まる。
美味しい話には裏がある…世の常だ。
「貴方が弟に似てるから、かしら」
「……」
俺は、言葉を失った。
人差し指を顎に当てて小首を傾げる仕草が色っぽかったから…ではなく、彼女の言葉と目から此方を揶揄ったり嘘を付いている気配を微塵も感じられなかったから。
……疑って後悔するくらいなら、信じて後悔してみよう。
それにコンにいつでも胸を張れる存在でありたい。例え、彼女が隣にいなくても。
「……では、お言葉に甘えても良いでしょうか?」
「勿論!子供は遠慮しないものよ」
何処かで聞いたような気がするな…と思いながら、俺は先導する女性の後ろを歩き始めた。
コン…早く君に会いたいよ。
抜けるような青空に、愛する神様の面影を重ねながら。
〜〜〜〜〜
彼女…イセカは、村に住む平凡な女性らしい。
弟と二人暮らししていたが一人立ちした彼は都へと仕事を探し出て行った。
彼は無事に仕事を見つけ、時折行脚に頼んで収入の一部を姉であるイセカの下へ届けているんだとか。
随分と出来た弟さんである。
しかし、それほどの稼ぎを得る職業が何なのか…気になるところだ。
「それがね、何度手紙で聞いても教えてくれないのよ。おかしな話よね」
困ったように笑うイセカさん。
当の本人が気にしてなさそうな感じだし、あまり重要ではないのかも?
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