第36話

文字の羅列、回れ回れ①

翌日。朝。HR前のちょっとした時間。


俺は何をしているかというと、


「あなたたちも大変ねぇ」

「まさかまだ、皆が許してくれていないとは思わなんだ…」

「テウが居てくれて助かったのじゃ。ありがとうのう」

「気にしないでいいわよ、死なれても寝覚め悪いし」


コンと一緒にテウがよく居る屋上に逃げ込んでいた。


「最近命を狙われる機会が増えた気がする」

「人の嫉妬は恐ろしいものじゃな」

「何で普通の学校生活でそんなことになるのよ!というか慣れすぎじゃない!?おかしいわよそれ!」

「「……!!」」

「忘れてたの…?」


図星である。


そろそろ命のやり取りをすることに慣れつつあったから、異常事態であることをすっかり忘れてたよ…。


今回、俺だけじゃなくてコンにも話を聞けば良いと気付いてしまった奴らによりコンも狙われている。


其方は追い込み情報を聞き出そうとするのみで触れようとはしないのだが、追われていることに変わりはない。


「ほとぼりが冷めるのに何日掛かるのやら…」

「何やらかしたのよ今度は」

「いや何てことはないが…ただ」

「ただ?」

「わしと紳人が一緒に風呂に入っていることがバレてしもうた」

「大問題よ!その年の男女が一緒に入ってるなんて、目の色変えるに決まってるわ!」


テウから見てもそうらしい。


コンと入ったというだけでも刃物のような殺意を向けられるのに、ウカミまで一緒だったとなっては詳細云々は最早どうでも良くなってしまうだろう。


野郎たちの心は俺を亡き者にすること、ただその一心に染まっている。


今となっては教室にいることすら怖い。


「でもそろそろHRの時間よね?」

「げっ!もうそんな時間か…」

「致し方あるまい。そろそろウカミも来ているじゃろうし、戻るとするか」

「そうだね。テウ、それじゃあまた」

「えぇ。次は慌ただしくない時に来て欲しいけど」


そればかりは俺たちにも分からないので、肩を竦め茶化してその場を後にした。


〜〜〜〜〜


「おかえり、紳人くん。柑ちゃん」

「ただいまだ。未子さん」

「ただいまじゃよ〜」


俺たちは席を自由に決められる権利を手に入れたので、最初は今と同じ席でも良いかなと考えてた。


でも、そこでふと気が付く。


次はもう逃げられないかもしれない、と。


そう思い至った俺は急遽席を廊下側から二列目の1番後ろの席を希望した。コンも俺の隣が良いと、廊下側の1番後ろの席を所望。


だったらと未子さんは俺の一つ前の席に来たので、綺麗に前回と入れ替わった形になった。


未子さんの隣は奇しくも前回ドッヂボール大会で彼女とコンのチームメンバーだった鈴風さんが座り、俺の一列通り道を開けた隣の席は沼間ぬまくんという男子生徒だった。


悟やクラスの所謂陽キャグループの一人で、イベント事には乗り気で参加する良いやつである。


ただ、運動神経は良いのだが勉強は苦手の典型的な運動タイプ。


授業中は眠っていることもちらほら…なのだが、ウカミの補習にも実は参加していた彼はその時は起きていたので興味があると熱が入るみたい。


HRの始まる前に、軽くよろしくと声を掛けるとよろしくと気の良い返事が返ってきた。


それは良かったんだけど…その手にカッターが握られていたことは気のせいに違いない。


きっと暇で紙の工作でもしていたんだ。そう思うとしよう。


……まるでクラスの男子が"頼むぞ沼間…!"と言いたそうに視線を向けていたことも、俺の考えすぎだよね!うん!


(刺されぬよう気を付けるのじゃぞ)

(……はい)


心の声でコンに現実を突きつけられ、有り難いそのお告げに肩と一緒に頭を下げるしかなかった。

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