席替えと、そのまにまに④
何とか溜飲を下げた悟が座るのを見てから、ウカミはくすっと人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら言った。
「それじゃあ此処からはちゃんとしたクイズをしましょう♪」
ちゃんとしたクイズじゃない自覚はあったんだ…。
内心ヘトヘトになりながらそう呟いてしまうけど、口には出さない。皆がわ〜!とノリ良く盛り上がっているし水を指す必要はないだろう。
俺とコンは席の指定権を既に手にしているし、台無しになる方がかえって勿体無いというもの。
という訳で和やかに皆がクイズに興じる様を傍観者のつもりで見守る。
「第三問!『悉く』これの読み方は?」
『…ことごとくです!』
「
「第四問!チンダル現象と呼ばれる、雲の隙間から光が差し込んでいるように見える現象の別名は?」
『……!はい!天使の梯子、だと思います!』
「
そんな風に皆一様に頭を捻りながら、不正解が続いた後に一人が閃くというクイズ大会らしい展開が続き。
いよいよ五問目、最終問題となった。
約2週間程度のこの学年最後である自分の席を自由に決められる権利はあと一つ。
自然と教室の空気が少ししん…と張り詰めたものになる。
全員の視線を一身に受けたウカミはくすぐったそうに俺とコンにしか見えない尻尾を揺らして、コホンと咳払いを挟んで最後の問題を出題した。
「第五問!私の好きな食べ物は何でしょうか?」
コンと顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
この問題は俺たちからしたらサービス問題も良いところだ。若しかしたら、だからこそ最初はあんな問題にしていたのかもしれない。
いや…やっぱり、揶揄い半分かな。
『オムライス!』
「残念!美味しいですが、正解ではありませんね…」
『たこ焼きでしょ!』
「残念です!あれも香ばしくて良いとは思いますが!」
思えばあまりウカミは自身の話をしない気がする。だから皆、あまり知らないんだ。
一通り自分の好物を上げているけれど、どれも恐らく正解であろうものには届きそうで届かないラインを行ったり来たりを繰り返す。
『先生難しい、ヒントちょーだいよぉ!』
「そうですねぇ。それじゃあ大ヒント!甘い食べ物です」
「…甘い食べ物かぁ」
ウカミのヒントにポソリと背後の未子さんが呟きを漏らし、そういえば彼女は…と思い出した直後はい!と元気よくその手を上げた。
「鳥伊さん、回答をどうぞ!」
「プリンですっ!」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
100万円掛かっていそうな問答を挟み暫し無言で見つめ合うと…ウカミは満面の笑みを浮かべ頷いた。
「おめでとうございます正解です!私、プリンが大好きでして…目が無いんですよね♪」
未子さんはやった!と喜ぶ中、答えられなかった他の人たちは残念とばかりに机に突っ伏したり脱力する。
何だか平和だなぁ…と感慨深い気持ちを最後に、突如として開かれたクイズ大会は閉会となった。
「楽しかったね、コン」
「そうじゃのう。来月も楽しみじゃ!」
10分ほど自由時間になったのでコンと雑談しようと話しかける。
すると最初はニコニコしていたコンが、やや心配そうな顔になっていく。
どうしたのかと問い掛ければ…フッと何故か憐れむような眼差しになった。
「紳人よ。安心せい…わしはいつでもお主の隣におるからの」
「急にどうしたの?いきなり今生の別れみたいに」
「……よぉ、紳人」
「!?」
悟がガシッと後ろから俺の肩を掴む。いつの間に!?
慌てて辺りを見回すと、男子たちが続々と俺を取り囲み始めていた。
「柑ちゃんと宇賀御先生とお風呂に入ったって話…詳しく聞かせてもらおうじゃねぇか」
「お,俺に…質問するなぁ!」
「待てこの野郎!逃すな追えぇ!」
『おおおおお!!』
咄嗟に肩を上下させて手を振り払うとそのまま放たれた矢の如く廊下へと飛び出す。
地獄から響くかのような雄叫びに背後から追われる俺は、もしかして三年生でもこんな風に命懸けの逃走劇をすることになるの…?と不気味なことを考えさせられるのだった。
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