席替えと、そのまにまに③
『紳人くん、彼シャツ好きなんだ…』
『まさかあいつがな』
『うん。何ていうか、意外にも』
『『『男らしいところあったんだ』』』
「ぐうううう!!」
クラス中からヒソヒソ声が生まれ、瞬く間に俺の性癖が広がっていく。
厳密には『コンの彼シャツ姿』が好きなので、コンが着ているものなら何だって好きだけど。
そして隠せない内緒話でやや驚かれているのは何故なのか。俺ほど男らしい奴もそうはいないだろうに!
料理だってできるし多少の解れくらいなら縫える、握力はそこそこで身長も170前後なのだが。
……まぁ気持ち悪いとか変態とか言われなかっただけマシということにしよう。
クラスメイトの変な懐の深さに感謝である。
「弟くんやこれから正解した人はクイズが終わったら前に来てくださいね、そこで席を選んでいただきますから。
では続いて第二問!」
まさか次も俺に関する問題じゃないよね?
いやそんなことはないはず、そもそもそれでは皆が面白くないだろうし。
『次は何かな!』
『紳人の好きな食べ物とか?』
『何だったっけ〜』
あれ意外と乗り気?なして?
「弟くんはお風呂では体のどこから洗うでしょうか♪」
まだ普通だ…普通だよ姉さん、やればできるじゃないか!
もうこの際俺のクイズであることは気にしない!
「簡単じゃなぁ宇賀御よ。手ぬるいではないか!」
「おや柑さん早いですね?では回答をお願いしますっ」
「頭じゃ、上から洗った方が汚れを流す上で効率的という理由での」
「花丸あげちゃいたいくらい大正解です!流石は柑さんですね〜」
間髪入れずコンが声を上げ、指名されると意気揚々と宣言する。
ムンっと得意げに胸を張り腰に両手を当てながらのその回答は見事に正解だ。
正解なのだが。
『柑ちゃん、凄い早かったね…』
『従兄妹だと分かるのか?』
先程のヒソヒソよりも、皆のざわつきが大きい。まずい…!
次の問題を、そう言おうと「つ…」までは発音できたまでは良かった。
しかし、それよりも早く耳聡くざわつきを聞いたコンが、むふ〜と息を荒げながら堂々と宣言してしまった。
「無論、一緒に入ったからじゃ!」
……一瞬の静寂。嵐の前の静寂のような時間は、嵐の前の静けさにも似て。
今すぐに対処しなければ!
血みどろの未来を回避するため全身が警鐘を鳴らす中、俺は何とか口を開いた。
「子供!子供の頃の話だよね!?いやぁあの時はお互いすっごい小さかったな〜!」
「何を言う。昨日も一緒に…」
「夢でもお風呂なんて気持ち良さそうだねぇ!」
(コン!それ以上はまずいよ!皆に色々バレるから!)
(む、確かに…わしらの平穏な学校生活を守らねばな)
(そうそう、コン分かってる〜。ならお願いっ!)
(任せろなのじゃ!)
心の声で必死に呼び掛けると理解してくれたようでこくりとコンは頷く。
世界の火薬庫バルカン半島ばりに一触即発の空気を醸し出す全員をぐるりと見回すと、ガラッと立ち上がり。
可愛らしさと凛々しさに満ちた不敵な笑みでフッと笑いコンはその小さな口を開いた。
「皆の者!安心せい!」
『?』
「ちゃんとウカミも一緒に入ったからの!」
俺たちの関係がバレたらいけない→つまり2人きりでなければ良い→ウカミも一緒に入ったことを言えば家族の団欒と受け取れる
コンの思考が手に取るように分かった。分かってしまった。
「……どうやらお前の席が決定したようだな」
「悟…」
背後が陽炎のように揺らめく程のオーラを放ちながら、悟がゆっくり立ち上がる。
そして判決を下す神の如く重々しく手を持ち上げ…彼は静かに校庭を指差した。
「オメェの席無ぇから!!」
「なぁしてぇぇ!?」
理性を失った
よく見れば、男子全員例外なく俺を恨めしそうに見ていた。
俺…本当に校庭が先になるの?
「まぁまぁ皆さん落ち着いて。それはクイズが終わってからでも大丈夫でしょう?」
「止めてくれてありがとう姉さん、でも多分そうじゃないと思うんだ…」
ぽんぽんと宥めるように手を叩きながら鶴の一声を掛けるウカミ。
そんな彼女を頼もしく思いつつも、やっぱり何処かズレてるんだなぁ…と思うのだった。
そんなコンもウカミも、俺は良いと思っているけれど。
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