第35話

席替えと、そのまにまに①

3月11日水曜日、今日からまた普段通り学校へ登校の日々である。


とはいえ授業は殆どプリントだったり三年生に向けての復習がメイン。


午前中の授業は相変わらずのんびりだったが、カリカリとシャーペンが走る音を耳にしながら窓の外を眺める時間は心地良かった。


まぁ…そのゆったりとした時間よりも、コンと雑談している時間の方が多かったのは、言うまでも良いよね。


そんなこんなで、お昼休みの時間が訪れる。


〜〜〜〜〜


「柑ちゃん、紳人、委員長。あれ、聞いたか?」

「悟…俺、今日一日は忘れないから…!」

「さらば。達者でな!」

「ちげぇよ引っ越さねえよ!てかひでぇな!?せめて三日は覚えてくれよ!」

「三日も短いと思うな…」


四人で教室の一画にて各々のお昼を食べ終えると、悟がそう話題を切り出した。


主語がなかったので言いづらいんだな、と己なりに汲んであげたのだが…どうやらそうではないらしい。


「それで三日坊主くん。何を聞いたの?」

「俺が言われる側なのか!?ってそうじゃねぇ…この後、2時間道徳だろ。その内の1時間で、どうやら席替えをするらしい。朝からクラスはその噂で持ちきりだ」

「その噂なら私も聞いたよ!二人と離れちゃうのは寂しいな〜」

「わしも紳人と離れるのは嫌じゃ!……腕の見せ所か」


隣でボソッと不穏なことを呟くコンに微苦笑する俺だが、決して他人事ではない。


俺もコンと席が離れるのは嫌だ。


心の声は教室程度なら届くけれど、隣にいない時間があるのは寂しい…。


此処はコンを頼るか、最悪コンの隣の席を引いた人物と交渉することも視野に入れなければ。


女の子なら穏便に、男であれば…多少お話ししても構わないだろう。


『小僧、妙なところで覚悟を決めるな』


おっといけない。顔に出ていたようだ、トコノメに指摘されてしまった。


ポーカーフェイスを心掛けよう…交渉の時は笑顔で!因みに笑顔は元来威嚇の意味があるみたいだね?


「ま、何とかなるさ。次は道徳だから…担当の先生は姉さんか」

「むっ…宇賀御か…」

「「絶対何かあるでしょ(あるじゃろ)」」


俺とコンの心が一つに重なる。


あのウカミが只のくじ引きだけで席替えさせるとは思えない。


何かしらのクイズで正解した人から好きな席を選ばせる、くらいのことはしてくると踏んでおくべきだ。


「コンはどう来ると思う?」

「そうじゃなぁ…紳人の好きなところを一人一個ずつ言わせ、言えたものは優先的に席を決められ出来なければくじ引きなどは考えられる」


腕を組んで唸るコンを見れば一度考えるように瞼を伏せ、再び上げると此方を見つめながら答えてくれる。


「いやいや、流石にあの宇賀御先生がそんな…なぁ?」

「うん。ちょっと考え過ぎだよ…」

「----やりかねない、姉さんなら」

「「えぇ!?」」


まさかと笑う二人を前に片手で頭を抱えると、信じられないとばかりに目を見開かれた。


でも仕方ない。本当にあり得るのだから。


宇賀御先生こと姉ことコンの保護者こと---役職が多いな---ウカミは、俺とコンを揶揄うことに余念が無い。


それはもう、悪戯好きとさえ呼べる程。


そんな彼女であればこれ幸いと何をしてもおかしくない…しかもわざわざ1時間使って?


席替えにしたって30分もあればくじ引きは終わり、それどころか席や荷物を入れ替えることも終わるだろう。


嫌な予感しかしない!でも逃げたら逃げたでもっとややこしいことになりそうで怖いし、何よりコンの隣をみすみす明け渡すようなものだ。


それだけは譲れない。つまり俺もコンも、その場から逃げることは不可能。


「……この逃げられぬ状況、彼奴の計算通りな気がするのじゃが」

「俺もそうだと思うよ。何だったら、噂の時点で既に関わってる可能性が高い」

「それは、そうだよな。席替えの話なんて担任くらいしか知らないだろ」

「二人って…本当に宇賀御先生と仲良く暮らしてるんだよね?」


くっと歯痒そうにするコンと恐らく似たような顔になってるだろう俺を見て、未子さんが困惑する。


それに同時に頷き、未子さんを見てこう言った。


「うん。でも…」

「うむ、じゃが…」

「「?」」

「「だからこそ悪戯される」」


ハッキリと断言した俺たちに、未子さんも悟もやや乾いた笑いを浮かべるのだった。


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