過ぎゆく日々、長閑にも④

「プリン、プリン〜♪」

「そこまで喜んで貰えるなら、作る側としてもこれ以上ない喜びだ」

「うむ!大好きじゃからな!」

「私も勿論大好きですよ…!」

「ありがとう、二神ふたりとも」


少し早めの夕ご飯の後、俺はゆらゆらと体を揺らしながらウキウキで待つコンと尾をなびかせるウカミを横目にプリンを作っていた。


食後のデザートなのであまり時間はかけられない。今回は熱を冷ますのに1時間くらいかかるスタンダードな作り方ではなく、マグカップを使う所謂マグカッププリンだ。


マグカップをお湯で温めその中に砂糖と水を混ぜたものを入れ、レンジで焦がしカラメル化。


取り出したら飛び跳ねに注意しながら水を入れ、少し固まるまで放置。その間にボウルに卵を落とし、しっかりととく。


砂糖を入れたらかき混ぜつつ数回に分けて牛乳を注ぎレンジで2分ほど温める。


カップの中が泡立ったらすぐに止めラップをした上でタオルを巻いて保温し、余熱で固める。


後は1分ほどマグカップごと氷に漬け、割れないよう慎重に皿に盛り付ければ…完成だ。


「お待たせ!マグカッププリンの完成だよ〜」

「とてもプルプルで美味しそうじゃ…」

「マグカップで作るプリン、面白い発想です」

「いつものプリンと違って少し温かいのが特徴かな」


コト、とちゃぶ台型テーブルの上で其々に配膳し最後に自分の分を用意し座る。


「「「いただきます」」」


手を合わせ声を揃えるとコンたちが小型のスプーンを持ってプリンへそっと下ろした。


どんな反応をするかな…と見れば、コンもウカミも煌々と目を輝かせるではないか。


ウカミまでそんな反応を見せるとはちょっと意外な気がするけれど、彼女のプリン好きがコンにも受け継がれていると思えばさもありなん。


「何じゃか、いつもの柔らかさとは違うのう?」

「普段よりもこう…トロッとしているような気がします」

「これは温かい段階で食べているから、より柔らかくなってるんだ。まだ固まりかけって感じで食感も変化しているよ」


言うが早いか、パクッと同じタイミングで口に運ぶ二神につい頬が緩んでしまう。


更にピン!と尻尾を立てる様まで同じだと言うのだから、その可愛さに微笑まずにはいられない。


「ふわふわなのじゃ〜♪はむっ、ん〜…!」

「ほっぺたが落ちちゃいそうです…温かいプリンだと、甘さがより香りますねっ」


姉妹のように。或いは母娘おやこのように。


きっと新しいプリンを食べる度にこんな風に会話していたのかもしれない。


もしそうでなかったとしても、今のコンとウカミの間に溝も蟠りなんて微塵もないと断言できる。


これからの更なる家族団欒の為に、俺ももっと頑張るとしよう。


……まずはその第一歩。


「あむっ。…うん、ほっこりするね!」


胸が温かくなるようなひと時を一緒に分かち合わないとね。


「む、そうじゃ!紳人よ」

「ん?」

「あ〜ん…しておくれ?」

「え、っと。…あ〜」


不意にコンが思い出したと自身のプリンを一口掬うと、片手を受け皿代わりにしながら自らも小さく口を開けて差し出してきた。


間接キス!意識しちゃってドキドキが止まらない。が、食べないという選択肢は無いだろう。


自分の大好きなプリンを分けてまで俺に食べさせてくれるというなら、それを丁重にいただくのが男。


僅かな逡巡の後、俺は真似するように口を開いて待ち受ける。


「紳人、あ〜んです♪」

「なんじゃと!?」

「んぁ!?」


コンはバッと顔を向け目を見開き、俺は口を開けっぱなしだったので素っ頓狂な声を上げながら驚いた。


何と!突如ウカミも自分のプリンを俺の口の前に差し出してきたのだ!


赤色の宝石のような瞳も妖艶に細め、コンの無垢な感じと対照的に色っぽさを感じる口の開き方を見せる。


「「……」」


気のせいだろうか。コンとウカミの間で火花が散っているような気がするんだけど…。


「「紳人!」」

「はい!?」


可愛くも深みのある声と、凛としつつも朗らかな声に左右から迫られ思わず背筋がシャンとなる。


「「どちらのプリンを食べるのじゃ!(食べますか!)」」

「……りょ、両方で」


迷ったら両方。これ即ち選択肢の鉄則なり!


「「……」」


ふふんと得意げに瞼を閉じ仲良く両方のスプーンを頬張った。


うん、美味しい!


「はぁ…」

「なして溜め息!?」

「お仕置きが必要ですね…」

「ウカミまで!」


コンとウカミが何故か深い溜め息を吐きながら、コンは頭にウカミは俺の首に尻尾を巻き付ける。


此処に来て漸く俺は自分がとんでもない過ちを犯したと悟った。


学習しない男だな…きちんと選ばないといけないと知っていたはずなのに。


「天!」

「誅!」

「ぐああああッッ!!」


ミシミシミシッ!!


〜〜〜〜〜


「……」

「……」


俺は再び、例の川…三途の川の岸に来ていた。そこで自然と正座して今度はツキと顔を突き合わせている。


「此処はそんなホイホイ来るところではないです…」


ツキが半ば呆れたように言う言葉に、ぐうの音も出なかった。

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