過ぎゆく日々、長閑にも③

「ハッ!?」

「目が覚めましたか、弟くん」

「おかえりじゃ紳人」

「あ、うんただいま…あれ?」


気が付くと俺はソファにもたれかかるようにして倒れ込んでいた。


感覚的には眠りの名探偵に近い。


何故か悪戯でけしかけたウカミと、本気で嫉妬したのか俺を臨時に追い込んだ当神たるコンに笑顔で迎えられる。


物凄い違和感を感じるけれど…細かいことは気にするなって言うし、まぁいっか!


コンにしてもらえるならそれもまた…いや臨死体験はちょっと審議するかも。


「弟くん…落ち着いて聞いてくださいね」

「えっうん、何かな」

「実は。弟くんが気絶している間に…去勢しました」

「嘘ぉ!?」

「はい、嘘です♪」

「んがぁ!!」


まだ寝ぼけていたのだろうか、明らかにおかしいのにその真偽を確認したくてコンたちが見ている前で思い切りガバッとズボンとパンツを持ち上げる。


その瞬間。ハッキリ嘘だと言われ、パシィン!と直して頭を抱えた。


「このようにしたら見せてくれますよ。分かりましたか、コン?」

「ふむふむ、勉強になるのじゃ!」

「俺が気絶してる間に何があったの…」


ウカミは俺の前に居るから見られなかったけれど、コンは素早く俺の後ろに回りまじまじと覗き込んだらしい。


むぅ…と唸りながら尚も俺の股間に焦点を当てていた。


流石にその、よせやい…照れるじゃないか…。


「……駄目だやっぱり恥ずかしい!そんなに見ないでぇ!」


何とか尊重してあげたかったが、流石に恥ずかしさが勝ってしまう。


両手で隠すと無意識だったのか顔を赤くしながら俺の顔を見て、ポソッと呟いた。


「す、すまぬ!わざとではないのじゃ。許しておくれ」

「あぁいやその…嫌じゃないんだ。だからこそ、色々と恥ずかしくて」

「紳人…」

「コン…」


その金色の瞳に魅入られるようにして、俺はコンと見つめ合う。


……本当に綺麗で可愛いな。


「っと、いけない…また二人だけの世界を作るところだった。ごめんウカミ」

「え?ふふ…気にしないでください」

「それとこれはコンたちにごめんなんだけれど…今日の夕ご飯の食材買い忘れてたのを思い出したよ、パパッと買ってくるからふたはのんびりしててね」

「分かったのじゃ、気を付けての〜!」

「了解!」


手早く身支度を整えると財布を片手に俺は家を出て、近所のスーパーへの歩き出した。


プリンの材料もついでにまとめ買いしておこうかな…そんなことを思いながら、春の足音を感じさせる微風に吹かれて。


〜〜〜〜〜


「のう、ウカミよ」

「何です?」

「彼奴…何だか少し大きくなった気がするのじゃが」

「奇遇ですね。私も同じことを思っていましたよ」


紳人が扉に鍵を掛けて外出した後。その面影を追うかのように視線を投げかけながら、わしらは笑う。


「男子三日会わざれば、とは言うものの此処までとは…人の子の成長はあっという間じゃ」

「お陰で退屈なんてしてられませんね」

「うむ!本当にの」


こうして深く心を交わしておると、一分一秒なんて数えてられん。


紳人を見るのに忙しくて暇など片時も無いのじゃから。


退屈故に過ぎ去る時間と、濃密に溶けゆく時間では意味も価値もまるで違う。


やはりわしら神は…人間と居ることによって、その存在意義を見出せるのじゃ。


あぁ……本当に、紳人のことが愛おしくてたまらぬ。あの時出会えて良かったと今ならば素直にそう言える。


パパッと買ってくると言うから見送ったが…次回からはわしも一緒に付いていくか。


彼奴がそばに居ない時間は…長くて仕方がない。今はもう、わしとウカミはわしらだけでは寂しくなってしもうた。


紳人が居てこそ、わしら神守家なのじゃ!


ひとよりふたふたよりも三人じゃからな!

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