過ぎゆく日々、長閑にも②
「む!紳人、もう起き上がっても良いのか?」
「うん。大分落ち着いたからね」
何が、とは言わなかったが腰痛だと判断してくれたらしい。
なれば良しとリビングのソファの上から笑うコンに一抹の罪悪感を感じながらも、ゆっくりと隣に腰掛ける。
「二人ともこれからはちゃんと程々にするんですよ?」
「「はい…」」
ウカミが優しく言いながらも人差し指を立てめっ!とするので、思わず肩を落として頷いた。
よろしい♪と大仰に許し、ゆらりと尻尾をゆらめかせる様は紛れもない神様の風格を漂わせている。
同じく神様であるコンとパチリと目が合うとへへ…とはにかむように笑う。
「そうです!ねぇ、弟くん」
「ん?」
「今度は私のお胸、揉みますか?」
「どういった流れで!?」
驚愕のあまり声が軽く上擦ってしまったけれど、そんなことはどうでも良い。
突然、自分の胸を組んだ腕で強調するように持ち上げるウカミにその真意を聞く方が先だ!
「コンと弟くんの仲が進展したので私たちもと思いまして…」
「それは家族の枠を超えたスキンシップだ!」
「そうじゃぞ!幾らウカミといえどそれは!」
「えい」
「わぁぁぁぁ!?!?」
コンを挟んで座っているのに器用にウカミは尻尾で俺の手を捕らえると、そのまま引っ張られ俺はコンを腕の中に収めながら両手でウカミの胸を鷲掴みしそうという地獄一歩手前の状況になる。
「ウカミ、何を…!」
「ほらほらどうしますか?今なら好きなだけ良いですよ…♪」
わざと体を揺らしてそのお胸と尻尾を弾ませ、俺をこの上なく誘惑する。
反射的に目で追ってしまい…突如ズンッと空気が重たくなり、何事かと見れば腕の中でコンがひくひくと肩を痙攣させているではないか。
「ウカミさんどうかお離しくださいません!?本格的に命の危険を感じるんだ!」
「ではその前にえいやっとどうぞ」
「清水の舞台から飛び降りろと!?って、ひぃ!コンの目から光が!あぁ待ってください無言で俺の首に指をかけないで!」
せめて、せめて尻尾でお願い出来ませんかね!それだともう本気で仕留めるつもりのやつだから!
「紳人よ…安心せい」
「コン…!良かった、やっぱり君なら分かってくれるって」
「痛みは一瞬じゃ」
「俺の話を聞いてよぉ!」
口元は優しく微笑んでいるのに目は全く笑っていない。ハッキリと据わっておられる。
「というか俺のせいじゃないんだ!ウカミが尻尾で…」
「はい?私は何もしていませんよ?」
「えっ、あっ」
気が付けば俺の両手はウカミの尻尾から解放されていた。
つまり、俺は自分の意思で揉むか揉むまいかを悩んでいる体勢になっていたわけで。
逃げられないよう俺の腰にコンの尻尾が巻き付けられ己の末路を悟る俺は…フッと力なく笑い、せめて華々しくと一言告げた。
「それでも俺はコンが好き」
「わしもじゃ…よっ!」
〜〜〜〜〜
刹那。俺は本当にこの世のものとは思えない激痛の後、瞬きの内に大きな川の前にいた。
「……君もその、大変だね」
「まぁ…可愛い神様と、悪戯好きの姉神様がいるから仕方ない…と思う」
何度目かの臨死体験を経験し、気まずそうに肩に手を置いてくれたヨミに見送られ死の淵から生還するのだった。
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